第三者意見

小田急電鉄環境報告書2016年版への第三者意見

本報告書を通読した上での全般的な感想を二つ、そして、細部についての意見を四点述べよう。

まず、小田急電鉄が、その事業の公益貢献的な性質を熟知しつつ、環境報告書の編集に当たっていることが特に印象深い。公共交通機関が公衆の移動の足を支える公益的な事業であることは論を待たないが、小田急電鉄では、さらに、鉄道が、公衆と環境との関係を改善するための重要な道具となることをしっかりと認識している。そのため、同社グループの環境取り組みの戦略(2010年実施)は、単に事業が環境へ与える悪影響を減ずることに着目するだけでなく、鉄道自体をもっと快適・円滑に活用してもらうことにも注力している。およそ報告書には、照らすべき規範なり目標がなければ、データ集になってしまうが、小田急電鉄の環境報告書は、このような建設的な戦略に照らした実施報告となっているので、全体として明るい性格を持っている。

もう一つの全般的な感想として、環境と鉄道事業の関係を大変具体的に取り上げていて、抽象的な報告書ではなく、ディテールが分かる報告書に仕上がっていることにも注目した。一例を挙げれば、省エネ型の車両の解説である。回生ブレーキやインバータの仕組みにまで及ぶ詳細なものであるが、非専門家にも分かりやすい。私は第三者の専門家として、ただレポートをチェックするだけでなく、いくつかの現場に赴き担当者の話も直接聞いたが、私も訪れた現場の一つの電気司令所について、今回の報告書は克明に、その働きを担当者の人名入りで紹介しており、具体性の高さと内容の正確性に好感を持てた次第である。また、地球温暖化防止のために鉄道利用の促進は有効であるが、その鉄道利用の前提となる安全・安定運行を司る運転司令所を同時に見ることができたのは非常に貴重な経験であった。

細かい意見に移ろう。まず第一に、この報告書が、数字化された客観情報をきちんと、そしてかなり網羅的に収めている点は高く評価したい。それも絶対値の生データだけでなく、営業運転距離当たりのエネルギー消費量といった指標的なものも収めており、例えば、他の鉄道会社などとのパフォーマンス比較にも報告書が使えるような配慮をしていることには、好感が持たれた。

しかしながら、第二に、折角のデータに関し、その変化の理由・背景などに関する分析が十分になされていないように感じるところも散見された。例えば、前述した運転量当たりのエネルギー消費の推移がどのような理由で起こったのかの分析はないが、そうした分析があればさらに一層の環境取り組みができるようになるのではなかろうか。また、環境の取り組みに要した費用面のデータとして環境会計も掲載されていたが、今後の環境会計ガイドライン改訂も視野に入れて数値の有効活用を図っていくべきであろう。このように、折角収めた数値情報の解説にはなお改善の余地があるように思えた。

第三に、豊富な数値情報であるが、同社では、ここに収められたもの以外にも、例えば、回生ブレーキの導入が同社の総電力消費量をどれだけ軽減したかの推計値、あるいは気象災害による運転支障時間数の年次推移といった、極めて社会的にインパクトのある数値情報を有しており、こうしたものも、環境報告書で一覧できるようになると、なお、社会的な価値が高まるように思われた。

第四に、同社の環境活動のひとつの柱である、沿線の自然環境の保全や活用に関しては、残念ながらステークホルダーとの関係が乏しいことを指摘したい。私も、この分野の活動を現場で確認するまでには至っていないので、具体的な提案は困難だが、例えば、小田急と沿線住民との協働作業による沿線自然環境の再生・保全の取り組みへの延べ参加人員など、適切な指標を作ってモニターをするなど、環境報告書において、自然共生活動の中身を一層詳しく体系的に紹介するといったことができるのではないか。

プロフィール

小林 光(こばやし ひかる)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

1973年慶應義塾大学経済学部卒業 同年環境庁(当時)入庁後、主に環境と経済、地球環境等に関わる諸課題を担当。2009年7月より環境省事務次官。水俣病被害者諸団体との和解、水俣地域の再生等を先頭に立って推進する。

2011年1月に退官し、同年4月より慶應義塾大学大学院及び環境情報学部教授。専門は、環境政策論、エコまちづくり、環境共生経済論。

 
 

第三者意見を受けて

小林先生には、貴重なご意見を賜り、厚く御礼申しあげます。本報告書では、当社の環境配慮の取り組みをご紹介し、小林先生には一定の評価をいただきました。

一方で、環境施策に対する背景分析や自然共生活動に関する地域の方々との協働活動の際の目標設定の必要性などの貴重なご意見、ご指摘もいただきました。

ご意見を伺い、当社が事業に伴う環境負荷のさらなる低減をしていくためには事業を理解し、重要な評価の指標となる数値を把握、分析していくことが必要であると改めて認識しました。また、当社の持続的発展のためにも地域の方々との協働は大変有意義なことであり、より社会的意義のある効果的な環境活動につなげていくためにも、これらのご提言を真摯に受け止め、活動してまいります。

当社は2010年より実施している小田急グループ環境戦略に基づき、事業活動に伴う環境負荷を低減する努力を続けてきました。今後も地域の方々をはじめとするステークホルダーの皆さまのご期待にお応えできるような活動を継続してまいります。

 
小田急電鉄株式会社
常務取締役
下岡 祥彦