第三者意見

小田急電鉄環境報告書2017年版への第三者意見

2年続けて小田急電鉄の環境報告書を読み、吟味し、意見を述べる立場となった。したがって、2年間を比較した報告書の充実に注目しつつ本報告書の長所についてまず意見をする。

第一に、報告書が取り上げる環境側面が一層明瞭になったことが進歩である。具体的には駅、という側面を切り出してきて、環境負荷を紹介するほか、コラムで、新しくできた世田谷代田の地下駅をルポし、そこでの環境取り組みを掘り下げていることなどは、複々線化の機会をとらえた、という意味で時宜を得ているだけでなく、読者の多くを占める乗客や沿線住民にとって本書を身近に感じさせる編集になっていて好感が持てる。

第二に、昨年も指摘したが、豊富な数量的なデータを開示していることも、引き続き、この環境報告書の長所となっている。単に絶対値とその増減を示しているだけでなく、輸送人キロ当たりの運転電力、といった鉄道事業全体のパフォーマンスを他社とも比較し得る指標で開示していることも好感が持てる。

第三に、昨年よりも力が入っているように感じたが、地下駅の環境対策だけでなく、コラムを用いた、環境取り組みの掘り下げた紹介をしている点も、今後とも維持してもらいたい編集上の長所である。特に、自然との共生、は分かりにくい概念であるが、今回の報告書では、大雪被害にあったツツジ等の特殊な園芸品種が、その後、現場従業員一丸となった取り組みで再生されていく様子を、お客さんの声にも触れつつ、生き生きと報告していて、(野生種ではないものの)生物の多様性を身近に感じさせてくれる点で良い試みであった。こうしたコラム的記載には、回生ブレーキから発生する電力の一層の有効利用技術、電子計算機サーバーの効率的な冷却などがあって、教育的な見地からも良い出来栄えであると思う。

次に若干の意見を述べたい。

折角の数量的なデータの開示にもかかわらず、データの変化の原因究明が必ずしも十分行われていない箇所がなお散見されることである。例えば、走行距離当たりの電力消費は減ったにもかかわらず輸送人キロ当たりの電力消費は増えるなどしているので、その背景などが解説されるともっと意義深い(将来的な取り組み充実に結び付く)報告書になるのではないだろうか。

最後に、今後の報告書への期待を述べたい。

小田急電鉄では、複々線化の完了という、歴史を画する取り組みを行ったわけだが、その環境面そして経済面、物量面での効果を総括することを試みてもらいたいと思う。なかなか単年度での分析にはなじまないので、年々の環境報告書という従来からの報告書の枠組みを広げることとなろうし、環境報告書を、ESG(環境、社会そしてガバナンスといった一層広い文脈)に照らしつつ編集するスキルを高めることにもつながるのではないだろうか。大いに期待している。

プロフィール

小林 光(こばやし ひかる)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

1973年慶應義塾大学経済学部卒業 同年環境庁(当時)入庁後、主に環境と経済、地球環境等に関わる諸課題を担当。2009年7月より環境省事務次官。水俣病被害者諸団体との和解、水俣地域の再生等を先頭に立って推進する。

2011年1月に退官し、同年4月より慶應義塾大学大学院及び環境情報学部教授。専門は、環境政策論、エコまちづくり、環境共生経済論。

2015年4月より慶應義塾大学大学院特任教授(現職)。

 
 

第三者意見を受けて

小林先生には、昨年度に引き続き貴重なご意見を賜り、厚くお礼申しあげます。

今回の「環境報告書2017」は、昨年度いただいたご意見を参考に、開示したデータの分析や自然環境保全活動の具体的な内容の掲出など、一部改善して発行しました。今年度発行の内容に関し小林先生からは、特集のコラムやデータの開示など一定の評価をいただきました。なお、今年度のご意見の中で「データの変化の原因究明が必ずしも十分行われていない」とご指摘いただいた箇所につきましては、ご意見をいただいた後、原因を確認できましたのでその理由を追記し、報告書を修正させていただきました。今後もデータ分析により原因を究明し、その結果を当社の事業に伴う環境負荷低減に生かしていくよう努めていきます。

当社は、今後も事業活動に伴う環境負荷を可能な限り低減することに努め、沿線地域の方々を始めとするステークホルダーの皆さまとの対話や協働を推進し、地域の持続的発展と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

 
小田急電鉄株式会社
取締役
荒川 勇