ケーススタディー

Case Study 公共交通の利用促進による地域の環境負荷低減〜藤沢市低炭素社会の実現に向けた交通体系推進プロジェクト〜

 

箱根・芦ノ湖畔の風光明媚な地に佇む「小田急 山のホテル」。ここは、かつての財閥当主、岩崎小彌太男爵が別邸を構えた場所でもあり、広大な庭園には、男爵が収集したツツジやシャクナゲが今なお残っています。しかし、2014年の冬、二度の大雪でそれらは大きな被害を受けました。これを機に、ツツジやシャクナゲ、そして庭園を次世代に残すための取り組みが大きく動き出すことになるのです。

大雪による想像以上の被害にあい再認識した庭園の価値。

2014年2月、二度の大雪により、小田急 山のホテルの庭園ではツツジやシャクナゲの一部の枝が折れるといった大打撃を受けました。

「庭園全体が雪に覆われた様子はこれまでにないもので、ツツジそのものが見えず、一面が雪の吹き溜まりと化した状態でした。庭園の維持・管理を担当する技術スタッフが必死に雪下ろしをするも、思うように進まず。そうして時間だけが経過する中、お客さまの安全を確認した後に私も庭園に出たところ、技術マネジャーの中澤から『このままでは雪の重みでツツジが枝折れし、大変なことになる』という言葉を受け、すぐさま本社に応援を要請したことを覚えています」と当時のことを、同ホテル支配人の稲本さんは振り返ります。

しかし、ホテルへと続く道路も大雪の影響を受け、通行止めで応援は受けられません。そこで、お客さまの対応を行う従業員以外のスタッフを総動員します。それこそ厨房からは、調理服のまま雪に埋もれたツツジの救出にあたるといった具合です。

大雪に見舞われた庭園の様子
大雪に見舞われた庭園の様子
スタッフ総出で雪かきをする様子
スタッフ総出で雪かきをする様子

くしくもこの一連の騒動が、庭園の維持・管理活動の大切さや考え方を大きく変える出来事になりました。

「それまで、自分自身も庭園の維持や管理は専任スタッフの仕事であるという感覚がありましたが、歴代の支配人やスタッフが守ってきた庭園を受け継ぐには、それではいけないと思わされました。また、ツツジやシャクナゲの存在が私たちにとってどれほど重要か、改めて認識させられました。岩崎別邸時代からの歴史を近隣の旅館や土産物店のオーナーに伺う機会があった際の『あのツツジは元箱根住民の誇りであり、幼い頃に花がら摘みや庭遊びをした思い出深い場所』という言葉が思い起こされ、歴史はもちろん、多くの人の思いがこの庭園にはあるのだと強く感じたものです」(稲本支配人)

 

歴史と思いがつまった庭園を次世代へ引き継ぐために。

こうした経験を糧に、2015年、庭園の維持・再生を目的に始動したのが庭園プロジェクト「男爵の100年ツツジ 100年先への挑戦」です。100年後を視野に入れ、ツツジは挿し木によって、シャクナゲは接ぎ木によってそのDNAを残すという方法で、今と変わらぬ庭園を次世代に残すプロジェクトをスタートさせました。

現在までの主な取り組みは、「苗木育成」「品種調査」と「土壌改良」。当然、専門家の協力が不可欠でしたが、偶然にも新潟市の農園、さらにはツツジ・シャクナゲの研究家との出会いがありました。

「ツツジ、そしてシャクナゲの保全、維持が急務となる中、当ホテルの庭園を気に入ってくださり、かつ付き合いのある庭園業者の方が新潟の専門業者を紹介してくれました。新潟県はツツジ・シャクナゲの生産量が日本一で、花卉(かき)農家も多く、育成や研究の歴史もあるとのことです。そして、その専門業者を訪ねに新潟へ赴くことが決まった際、ツツジ・シャクナゲの研究家である新潟県立植物園の副園長、倉重先生とも知り合うなど、多くの方々との出会いに恵まれました」(中澤技術マネジャー)

幾つかの偶然が重なり、庭園プロジェクトは形を成していきます。同年6月、男爵が植えた木の中から6品種、各約200本のツツジの穂木を採取。新潟の農園へと届けられた穂先10cmほどの穂木は、ビニールハウス内の苗床へ植え替えられ、30cmほどになるまで育てられます。そして、2017年6月、その一部がホテルへと戻され、庭園の一角にある圃場(ほじょう)でさらに育成しています。この苗木は、8〜10年かけて70cmほどになるまで成長させてから庭園に定植する予定です。

ホテルに戻り、圃場で育てられているツツジ。中には品種調査中のものも ホテルに戻り、圃場で育てられているツツジ。中には品種調査中のものも
 

庭園環境をスタッフみんなで保全し、箱根の魅力をいつまでも。

庭園プロジェクトでは、「峰の松風」や「京鹿の子」といった希少なツツジの品種が確認され、品種別の歴史的な背景までも知ることになったといいます。このことは、「庭園の価値」「庭園に対する誇り」など、いっそうスタッフのモチベーションアップにもつながりました。また、約20年前から行っている「お礼肥」は5月の開花を終えたツツジへの感謝の意を込めて庭園の土壌を整えるもので、専任スタッフだけでなく、支配人や新入社員ら、できる限り多くのスタッフが集まり作業します。

「一株一株、ツツジのまわりに穴を掘り、お礼の気持ちを込めて肥料を与えていきます。庭園プロジェクトが始まってからは、それまで以上にツツジへの愛着をもってスタッフみんなで作業しており、当ホテルが残していかなければならない庭園の歴史、思いを分かち合ういい機会となっています。大変な作業ですが、いったん足を止め、じっくりと当ホテルの財産に向き合うことで、日々の業務に生きるものがあると感じています」(大橋技術アシスタントマネジャー)

こうした活動の効果は、お客さまの反応にも表れています。

「当ホテルのお客さまからのアンケートには、さまざまなご意見がありますが、行き届いた手入れや庭師からの花の説明に対する良い評価を目にすることが多くなりました。おもてなしは思って成すことと学びましたが、私たちは庭園を通して『おもてなし』の心をもっともっと身に付けたいと感じています。同時に、豊かな自然を有する箱根の地で、長年にわたってホテルを運営させていただいている感謝とともに、地域に貢献する責任があるという感情もいだきます」(稲本支配人)

その言葉どおり、小田急 山のホテルでは、庭園プロジェクト以外にも宿泊料金の一部を箱根町資源保全基金(箱根トラスト)へ寄付する宿泊プランの導入や、廃棄食材を堆肥に変え、農作物に再利用するリサイクルの推進などにも取り組んでいます。さらに、リゾートライフの提案として茶樹やホップを栽培し、お茶やビールといった副産物を開発することで箱根滞在の付加価値創出にもチャレンジしています。

庭園プロジェクトは、その活動の中で箱根の歴史と人の思いに改めて気づくきっかけとなり、かかわる人たちの結束を生み、ホテル運営の活性化へとつながっています。大切にしたい、後世に残していきたい。そんな人の思いが続く限り、芦ノ湖に臨む悠久の空間、男爵の庭園は自ずと後世に伝わっていくことでしょう。

     
お礼肥の様子
庭園の脇で栽培する茶樹とホップ
庭園の脇で栽培する茶樹とホップ

【PROFILE】

お礼肥当日庭園にて
お礼肥当日庭園にて

株式会社小田急リゾーツ
小田急 山のホテル
技術マネジャー 中澤 潤也さん
支配人 稲本 光央さん
技術アシスタントマネジャー 大橋 明雄さん
(左より)

※ 内容は2017年9月現在のものです。