Interview 快適と環境、2つの共存を考える。

快適性の向上や環境への配慮を目的のひとつとして、通勤車両1000形(1000形ワイドドア車36両を除く)160両を対象としたリニューアルを実施しています。2014年12月からは、随時リニューアル車両の運用を開始。内装を変更することで車内快適性の向上を実現し、最新型の制御装置の採用によって省エネ化を推進しています。快適性と環境負荷低減の両立のために集結させた、アイデアや技術、努力について車両設計者が語ります。

回答者

小田急電鉄株式会社

運転車両部 車両担当技術員 山田 健一さん

*所属部署は取材当時のもの

運転車両部車両担当として、車両設計の面からのアプローチで環境負荷の低減へ取り組む。鉄道車両の設計や工程の管理を行い、環境と快適性に配慮した列車運行を行うための重要な役割を担っている。

———はじめに、通勤車両1000形をリニューアルするに至った理由、経緯とあわせて、リニューアルの概要をお聞かせください。

通勤車両1000形は、製造から25年以上が経過しています。お客さまからリニューアルの要望は寄せられてはいませんでしたが、最新の新造車両と比べると空調などの車内サービスが低下している事実は把握していました。車両の快適性、機能性や安全性の診断を行った結果、現在のアイデアや技術を結集させ、沿線のお客さまに新たな快適空間を提案する必要があると判断しました。

最新型のVVVFインバータ制御装置
最新型のVVVFインバータ制御装置
リニューアル車両の内装
リニューアル車両の内装

今回の車両リニューアルは、通勤車両1000形の外観などは大きく変更せずに、VVVFインバータ制御装置(※1)をはじめとした劣化部位のみを交換して更新を進めました。最新型のVVVFインバータ制御装置を世界で初めて搭載し、運転電力を従来比率20%から最大約40%削減する省エネ化を実現しています。さらに、車内混雑時に少しでも快適に過ごしていただけるように、車内インテリアに手を加え、車内快適性も高めました。

  1. 電車を動かすために直流電流を交流に変換し、モーターを効率よく制御する装置。

———大幅な省エネを可能にした最新型のVVVFインバータ制御装置。どのような仕組みで、環境負荷の低減へ寄与しているのでしょうか。

最新型のVVVFインバータ制御装置には、将来のキーデバイスとして応用が期待されている大容量フルSiC(炭化ケイ素)パワーモジュールを使用しています。これはVVVFインバータ制御装置に使用されている半導体のことで、従来使用されていた半導体よりも電力損失が少なく、電車を動かす電力の消費を低くすることができます。また、高温でも動作できる特徴によって冷却器も小さくなり、VVVFインバータ制御装置の外形・重量ともに従来の約80%以上削減することができました。

さらに、電車がブレーキをかけたときに発生する電力を架線に戻し、運行している別の電車のエネルギーとして再利用する回生ブレーキの効率も、大容量フルSiC(炭化ケイ素)パワーモジュールを採用することで向上しています。この結果、全体で最大約40%の省エネ効果が運行後の調査でわかっています。電力量の削減はCO2排出量の削減につながるため、より一層の環境負荷低減に貢献できたと手ごたえを感じています。

■回生ブレーキイメージ図

一方で、新たな省エネ機器を導入するにあたり設計での課題もありました。車両製造当時の古い機器や、メーカーの異なる機器と、新しい機器との相性の問題です。幸い、当社の環境への配慮に対する積極性に理解をいただき、各メーカーからリニューアル車両に合わせた製品の提案をいただけました。設計の課題をクリアできたときは、担当者として感慨深いものがありました。

———快適性向上のため、客室にも大きく手を加えられていますが、どのような点にこだわったのでしょうか。

そよ風をイメージしたブルーのライン
そよ風をイメージしたブルーのライン
十分な広さを確保した車椅子スペース
十分な広さを確保した車椅子スペース

車内リニューアルの施策については、車内混雑時に少しでも快適に過ごしていただけるように、爽やかさと温もりを感じられる空間づくりを意識しました。車内混雑時にお客さまが狭い空間の中で過ごすことを考え、視線が届きやすい天井にそよ風をイメージした緩やかな曲線のラインを施し、視覚的に微風を感じて気分を和らげてもらえるようなデザインを取り入れています。コンセプトを明確に持った意匠を天井に採用した例がほとんどなかった中で、デザイナーの発案により実現できた試みです。

その他、座席の幅を近年製造された車両と同等に拡幅したほか、着席している人の杖や傘の先端がずれて立っているお客さまに当たり、乗降の妨げとなる点を課題として、脚台前の床に新たに杖や傘の先端を引っ掛ける板(SUS板)を設置するなど、快適性の向上に努めました。また、車椅子スペースなどバリアフリーの設備に関しては、お客さまからの強い要望があったこともあり、十分なフリースペースを確保しています。

———その他、今後のリニューアル計画の展望などをお聞かせください。

列車走行に伴う騒音の低減を目指している当社として、1000形リニューアル車両は全密閉式主電動機(※2)を搭載しています。車両走行の際、走行音を聞き比べていただけると、騒音対策の効果が感じ取れると思います。

また、室内照明がすべてLEDを採用していることに加え、試験という位置付けで、10時~14時の間、照度が自動的に半分に変わるシステムを導入しています。まだ、実用化はされていませんが、将来さらに省エネ化が推進できると考えています。

※2 VVVFインバータ制御装置と繋がった列車を動かすためのモーター。従来のモーターより走行騒音を約5デシベル削減(速度80km/h、レール中央から6.25m、高さ1.2m地点)できたことが確認されている。

1000形のリニューアルは、年間3編成(4両もしくは6両)のペースですべて完了するまでに5年以上の期間を予定しています。リニューアル車両の本数が増えてくれば、沿線のお客さまからの認知度もあがり、多くのご意見・ご要望をいただけると考えています。お寄せいただいた声を還元し、快適と環境の共存を考え、今後のリニューアルを進めていく予定です。

———ありがとうございました。

  • 内容は2015年9月現在のものです。

環境に配慮した取り組みの推進(環境報告書2015)