Case Study 公共交通の利用促進による地域の環境負荷低減~藤沢市低炭素社会の実現に向けた交通体系推進プロジェクト~

神奈川県藤沢市では、低炭素社会の実現に向け、行政を主体に交通事業者、市民らが一体となり、将来にわたって持続可能な地域交通のあるべき姿を目指して、さまざまな交通施策に取り組んでいます。ここでは、地域交通の要でもある路線バスを運行する神奈川中央交通株式会社と江ノ島電鉄株式会社が、行政や市民と連携して取り組む「公共交通の利用促進による地域の環境負荷低減」に向けたプロジェクトについて紹介します。

自家用車利用から、公共交通利用への転換機会をつくる。

藤沢市は東京都心部から約50km、神奈川県の中央部近くに位置する人口約42万人の都市です。市内には、年間1,500万人以上が訪れる風光明媚な観光地「江の島」「湘南海岸」があり、また、4つの大学を有する学園都市でもあります。

地域提案型バスの内、例えば辻堂駅南口では、神奈川中央交通・江ノ電バス藤沢とで交互に運行
地域提案型バスの内、例えば辻堂駅南口では、神奈川中央交通・江ノ電バス藤沢とで交互に運行

市では、人口が集中しているものの公共交通サービスが行き届いていなかったり、鉄道路線の最寄り駅が遠かったりする地域の交通体系の改善など、長年にわたりさまざまな交通問題と向き合い、多様化する交通ニーズへの対応を図ってきました。そして、中長期的視野での都市計画を策定し、過度な自家用車利用から公共交通利用へシフトする「環境配慮型の街づくり」に、地域の交通事業者や市民らとともに取り組んできました。

その一環として、1997年から普及を進めているのが「地域提案型バス」です。これは、地域住民からの提案を受けて導入された路線で、いわば“住民主導型”の公共交通施策。「導入に際しては、行政や関係機関と協力して、実施に向けた協議・調整を重ねました。行政が地域との合意形成、走行環境の整理などを行い、当社では運行計画の策定と実際の運行を担っています」と話すのは神奈川中央交通の露木さん。また、運行開始後も行政、バス事業者、市民が連携し、利用定着に向けた調査などを実施することで、「現在では13路線に拡大し、平日1日あたりの乗降客数は1万人を上回るなど、多くの路線で利用定着につながっています」と江ノ島電鉄の髙橋さんは言います。

■地域提案型バス13路線(2016年3月末現在 廃止および再編された路線を含む)

路線名 ルート 運行
藤が岡線 藤沢駅北口~藤が岡循環 神奈川中央交通
渡内循環線 藤沢駅南口~渡内中央循環 江ノ電バス藤沢
病院辻堂線 茅ヶ崎市立病院~辻堂駅北口 神奈川中央交通
上土棚団地線 長後駅西口~綾瀬上土棚団地 神奈川中央交通
こぶし荘線 長後駅西口~湘南台駅西口 神奈川中央交通
南海岸線 辻堂駅南口~辻堂団地 神奈川中央交通
江ノ電バス藤沢
善行団地北周り線 善行駅西口~善行台~善行団地 神奈川中央交通
天神町循環線 六会日大前駅西口~天神町循環 神奈川中央交通
教養センター循環線 藤沢駅南口~村岡宮前~教養センター循環 江ノ電バス藤沢
御所見南部循環線 慶応大学~打戻・獺郷・宮原循環 神奈川中央交通
善行駅循環線 善行駅~善行団地循環 神奈川中央交通
柄沢循環線 藤沢駅北口~柄沢循環 神奈川中央交通
柄沢大船線 柄沢~大船駅西口 神奈川中央交通

新たな公共交通システムの導入により混雑の解消を図る。

一方、“行政・交通事業者連携型”の代表的な公共交通施策としては、湘南台駅の駅前広場の混雑解消施策があります。湘南台駅では1999年の横浜市営地下鉄、相鉄いずみ野線の延伸以来、駅西口の混雑が深刻化。「特に、朝8時台の通勤・通学ラッシュのピーク時には250人近くがバス停に並び、バスに乗り切れない人による混雑が歩道に滞留し、一般歩行者の通行の妨げになっていました。一方で、駅前のバスロータリーは車両を収容するスペースが少ないため、慢性的に交通渋滞が発生し、必要数のバスがロータリーに入れないという状況も発生しました」(露木さん)。

連節バス「ツインライナー」
連節バス「ツインライナー」

課題解決に向けて、行政が主体となってさまざまな交通システムの検討がなされた結果、2005年、既存の交通インフラ、道路空間を活用した新たな交通システムが導入されることとなりました。具体的には、湘南台駅西口~慶応大学間でバス1台1台を識別し、信号の点灯時間を調整して運行を優先させる信号システム(PTPS)を採用し、かつ、輸送力の高い連節バス「ツインライナー」を運行するというものです。「大量輸送の実現によって、湘南台駅西口の滞留人員総数はピーク時の40%以上減少するなど、バス利用者の歩道滞留人数の減少や交通渋滞解消が図られました。また、当該区間の所要時間は約2分30秒短縮されるなど、速達性も向上しました」(露木さん)。

バスロケーションシステム(画面イメージ)
バスロケーションシステム(画面イメージ)

さらに、2010年からは、リアルタイムの運行情報を携帯電話などで利用者に知らせる「バスロケーションシステム」を本格導入。市内におけるアクセス件数は、1日あたり9,000件を上回っています。

持続可能な地域交通のあるべき姿を目指して。

バス停付近の駐輪スペース
バス停付近の駐輪スペース

2014年からは、バス停付近に駐輪スペースを設けることで、自転車からバスへの乗り換えを促す「サイクル・アンド・バスライド」を実施。神奈川中央交通では周知看板を設置するなど、さらなる公共交通利用の促進を図っています。

「これらの取り組みは、環境負荷の面でも大きな役割を果たしています。これまでに、地域貢献型バスの導入や新たな交通システムと連節バスを組み合わせた交通施策によって、CO2排出量の削減にも貢献しています」(髙橋さん)。

こうした一連の取り組みとその成果が評価され、藤沢市、神奈川中央交通、江ノ島電鉄、およびいすゞ自動車(株)(※)の4者合同で、2015年度の「EST交通環境大賞」の大賞(環境大臣賞)を受賞。この賞は、EST(環境的に持続可能な交通)の普及を目的に温室効果ガスの排出削減など地域の交通環境への取り組みを表彰するもので、「今後も行政や市民との連携を深めながら、持続可能な地域交通の実現とさらなる環境負荷低減に努めていきたいと思います」(みなさん)。

  • いすゞ自動車では、ミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料で走るシャトルバスを湘南台駅から同社工場まで定期的に運行している

プロフィール

神奈川中央交通株式会社

運輸計画部 計画課

計画係長 鈴木 信行さん

計画課長 露木 輝久さん

事務員 佐藤 勝太さん

(左より)

江ノ島電鉄株式会社

自動車部 計画管理課

課長代理 根岸 伸行さん

課長 髙橋 優介さん

課長代理 福岡 聡さん

(左より)

※ 内容は2016年9月現在のものです。

環境に配慮した取り組みの推進(環境報告書2016)