給食は知性を育てる身近な授業子どもが「生きる力」や「社会性」を学ぶ大切な時間子どもにとって身近な給食。栄養を取るのはもちろんですが、実は多くのことが学べる“身近な授業”でもあるのです。長年、小・中学校の栄養士として多くの子どもたちと接してこられた宮島先生に、給食の役割について伺いました。6お友達と一緒に食べることはいろんな刺激を与えてくれる 食べるという習慣や味覚の形成は、幼少期にどんな食事をどのように食べていたかが大きく関わっています。朝食を取らなかったり、食べても柔らかい菓子パン一つだったりすると、それが当たり前になる。柔らかい食べ物ばかり食べていると顎が発達せず、かむ力が弱くなる。いろんな食材を食べた経験がないと、知っているものだけしか食べなくなる。こういう経験は小さい頃からの毎日の積み重ねで続いていくものですから、大人になっても影響してきます。 だからこそ、給食という役割が大きく関わってくるんです。給食は先生やお友達と同じメニューを一緒に食べます。好き嫌いが多い子や食が細い子たちは、最初はほかのお友達に比べて食べられないこともあるでしょう。ですが、自分の家とはちょっと違う食事の雰囲気の中、もりもり食べている子や、「おいしい!」「お代わりしていいですか?」と食べているお友達を見て、「これはおいしいものなのか」「頑張って食べてみよう」という気持ちが芽生えて食べようとします。大勢で食べることで、みんなと合わせることや食事のマナーなど社会性が身に付きます。さらに、先生から「今日は頑張って食べたね!」と褒めてもらえると、自分が評価されたことで自信を持ち、自己肯定感が育ちます。給食は栄養を満たすだけでなく、子どもたちの身近にある食育の時間であり、人間形成においても大切な時間なのです。給食という「食育」を通して考える力や思いやりの心が育つ 私は子どもたちに、「なぜ食べないといけないのか」ということをさまざまな角度から伝えてきました。例えば、1メートルの定規を見せ、「人生100年をこの定規で考えるなら、小学4年生の君たちはまだ10センチ。まだこんなにある人生をどう生きるか。将来、夢ややりたいことをかなえて自分が幸せだったと思う生き方をするにはどうすればいい? 生まれてから今日まで、そしてこれから先もずーっとつながっているんだよ」と問いかけると、子どもたちは「元気でいないとダメです」と答えてくれます。 あるときは病気にならない食べ方や考え方の話をしました。病気にならないための体の基本は腸です。腸内環境を整えて善玉菌を増やすことで免疫力をアップさせる。長いホースを腸に例えて話をしました。「こんなに長い腸はどうしておなかに入っている?」。しばらく考えた後、 「ぐにゃぐにゃ曲げないと入らない」「ホースみたいな太さだと入らない」と子どもたちは答えます。「そうですね。腸はホースよりも膜が薄い。そしてグニャグニャ曲がっている。こんな複雑な形の腸をきれいにお掃除して免疫力を高めるためには、毎日バランスのよい食事を取るという積み重ねが必要です。それから、たくさん笑って、たくさん運動すること。全てが免疫力アップにつながっていくんです」。それを聞いた生徒は「大事な腸が入っているおなか、大切にしないとダメだね」と自ら想像し、発言してくれました。 このように食を通して子どもたちは、考え、想像し、知らなかった知識を習得し、命の大切さ、思いやりを学ぶことでいろんな成長につなげているのです。食育は知育・※徳育・体育の基礎「生きる力」を養う時間 子どもが元気に幸せに生きていくためには、眠ること、食べること、出すこと(排せつ、嫌な思い)、遊ぶこと、愛されること、学ぶこと、この6つが大切になってきます。その基本となるのが「食」です。食べることで子どもたちの元気・やる気・根気・勇気を育て、それらが人格を育てることにもつながっていくのです。 食べることは味覚、嗅覚、視覚などの五感を使うことで、より記憶として子どもたちの脳に残ります。食を通して学んださまざまなことが、最終的には子どもたちの「生きる力」を養ってくれる。給食はそんな教育の場にもなっているのです。監修/宮島則子先生食育アドバイザー荒川区の小・中学校で33年間栄養士を経験。現在はその経験を生かし、食育アドバイザーとして、学校・家庭・地域・社会をつなぐさまざまな食育活動を展開し、全国各地の食育研修会やフォーラムで「命・食・農を学ぶ」実践を広めている。著書に『ハートをつなぐおいしい食育』(教育図書)『給食ではじめる食育』(あかね書房)など。※徳育とは、人間としての心情や道徳的な意識を養うための教育を指します。
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