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発酵食は究極の自然食である 「発酵食品は腐ったもの」という声をよく聞きますが、そもそも発酵とは、こうじ菌や乳酸菌、納豆菌など善玉の微生物が人間にとって有益な物質を作り出すことをいうのであって、悪玉の微生物が引き起こす腐敗とはまったく違います。例えば、牛乳を数日間放置すると、空気中から侵入した腐敗菌によって毒性物質が作られ、それを飲めばおうとや下痢を引き起こし人間にとっては有害となります。ところが、牛乳に乳酸菌という微生物を入れることで、数日たつとブヨブヨと凝固しヨーグルトやチーズになる。これらは酸味とうま味があり、しばらくは腐らない保存食という、人間にとって価値ある有益なものになるのです。このことからも発酵と腐敗は違うものだとわかりますよね。 では、どうして発酵が体によく、世界的に注目されているのか。そのひとつに、大きな見方をすれば、発酵食品は究極の自然食品ということがあります。納豆を考えてみましょう。煮た大豆に納豆菌を増殖させて作り、それに醤油をかけてそのまま食べられますよね。みそを考えてみましょう。大豆を煮てつぶし、そこに塩とこうじ菌を入れて発酵させて作り、そのまま食べられますよね。つまり発酵食品は製造過程で何一つ添加物が入っていない、究極の自然食品なのです。発酵食によって免疫力がものすごく高まる さらに発酵する過程において、微生物はものすごく体にいいものをいっぱい作ってくれます。最近甘酒がはやっていますが、私は「甘酒は飲む点滴」と言っているんです。甘酒とは蒸した米にこうじ菌を増殖させて米こうじを作り、そこにお湯を加え、場合によってはご飯も加えて温かい場所にひと晩置いてできた甘い飲み物。この甘さは米のデンプンがこうじ菌に分解されてできた100%のブドウ糖です。そして米の表面にあるタンパク質が分解されてアミノ酸ができる。さらに甘酒を分析すると、ビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、イノシトール、ビオチンなど、人間が一日に必要なビタミンがみんなそろっている。つまり、甘酒にはブドウ糖、アミノ酸、ビタミン全て入っている。実はこれ、点滴の成分と同じなんです。すごいでしょ! 米が発酵することで、こんなにも体にいい成分ができるんです。それはこうじ菌が子孫を生んでくれていて、それを私たちがいただいているということなのです。 実際に国立がん研究センターは、みそ汁を毎日飲む人は飲まない人に比べてがんの発生率が低いというデータを発表しています。最近では広島大学が、ヨーグルトから乳酸菌生菌を大量に体内に取り入れた場合のがん予防効果が高いというデータを発表しました。これは、人が摂取した肉や魚のタンパク質が腸で分解されるときに発がん物質が生じる場合があるのですが、腸管内に多くの有用整腸菌、つまり乳酸菌が生息しているとそれらの悪玉菌を阻害してくれ、大腸がんや直腸がんの予防になるというわけなのです。 ただ、免疫というのは持続するものではありません。日々習慣として発酵食品を取り続けることで、高い免疫力が期待できるのです。大切なのは子どもの頃から発酵食に慣れ親しむこと 体によくて免疫を高めてくれる発酵食品は、子どもの頃から食べることに越したことはありません。元気で丈夫で病気をしにくい子どもに育てるには、発酵食品が一番ですね。 また、子どもの味覚形成は幼少期といわれています。物心がつく前から発酵食品を取っていると、それが体に染みつきます。子どもの頃の記憶はすごいもので、独特のにおいがある発酵食品も小さな頃から食べていれば抵抗が少なくなるんです。そして、子どもの頃に食べていないと、その子が親になったときに自分の子どもに食べさせることも減りますよね。今、子育てをしている親御さんはさらに先を見据えて「孫の代まで発酵食品」ということを考えてみてはいかがでしょう。発酵食はここがすごい!幼少期から食べさせたい発酵食日本の伝統食はいいことだらけ!日本には伝統的な発酵食品がたくさん存在しますが、近年、それらが健康にとても優れた食材であると注目されています。そこで、発酵学の第一人者でもあり「発酵仮面」の異名を持つ小泉武夫先生に、発酵食の魅力やその栄養面、子どもの成長との関係について、いろいろと伺いました。撮影/中西裕人8監修/小泉武夫先生農学博士東京農業大学名誉教授であるほか、現在は鹿児島大学、琉球大学、石川県立大学、福島大学の客員教授を務める。専攻は酒造学、発酵学、食文化論。発酵学の第一人者であり、発酵仮面という異名を持つほど発酵食好き。日本経済新聞の連載 『食あれば楽あり』は26年間連続掲載中。2018年公開のドキュメンタリー映画『いただきます』にも出演。その1 究極の自然食その2 免疫力を高めるその3 悪玉菌をやっつける

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