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2024年6月、小田急江ノ島線の鵠沼海岸駅から歩いて10分ほどの場所に「鵠沼海浜公園 HUG-RIDE PARK」(以下、ハグライドパーク)がオープンしました。長年にわたり親しまれてきたスケートパークで有名なこの公園は、スケートボードやBMXなどのアーバンスポーツだけなく、目の前に開けた海、江の島、さらには富士山を望む絶好のロケーションを生かし、さまざまな楽しみ方ができる場所へと生まれ変わっています。
この場所をどのように変え、これからどんな場所にしていこうとしているのか。地域と行政をつなぐコーディネーターとして、事業を担当する小田急電鉄㈱エリア事業創造部の諏訪部康太郎さんと比留田孟徳さんに、これまでの活動を通じた気付きや、10年後、20年後への思いを聞きました。
親しまれてきたスケートパークに新たな価値を持たせる
ハグライドパークは、かつて県営のプールや小田急グループが運営していた「鵠沼プールガーデン」があった場所でもあります。プールとしての役目を終えてからは、スケートパークとして市内外のスケーターに親しまれ、近接する海ではサーフィンを楽しむ人々の姿も多く見られる場所でした。

そんな場所を藤沢市がPark-PFI事業として公募を開始したのが2021年6月。Park-PFIとは、公共施設である公園に商業施設などを併設して、公園施設を維持管理しながら最長20年間運営できる事業者を選定する制度のことで、いくつかの企業が名乗りを挙げる中、小田急電鉄を代表とした複数のパートナー企業からなる「鵠沼海浜公園GROWING PARKグループ」(以下、グループ)も参加。選考を経て、見事最優秀事業者に選定されました。
藤沢市からどのような点が評価につながったのか、諏訪部さんはこう振り返ります。
「これまで地域と一緒に歩んできたパートナー企業が中心となってグループを結成していますが、共通の思いは『この場所をより愛着や誇りを持てる場所にしていきたい』『20年間の事業期間を通して、地域とともにGrow up(成長)し続けたい』という点です。提案ではカルチャー、人、場所の観点から“育む”ことをテーマに掲げ、コンセプトを『KUGENUMA Growing Park』としました。そうした“育む”であったり、“地域と共に成長する”といった価値提供の形に共鳴していただけたのではないかと思いますし、スケートパークを中心とした新たな公園の魅力を、事業に携わる誰もが理解し合えたことも大きかったですね」

フェアな関係構築で築き上げた「喜び」の原点
一方で、Park-PFI事業による公園の開発は、藤沢市、小田急電鉄の両者にとって初めての取り組みでもあったため、試行錯誤の連続だったと諏訪部さんは言います。
「Park-PFI事業の難しさは公共性と経済性の両立です。よほど特色のある場所でなければ、事業として成り立たせるのはさらに困難になります。そうした点で、元々スケートパークとして利用されていたこの公園は、立地的にも希少価値の高い場所だったと言えます。また、スケートパークの建設自体が非常に専門性を問われる分野ですので、パーク設計に詳しいパートナー企業がグループにいたことでとても助けられました。フィーリングや感性も大切にしながら進める作業は新鮮で、普段接点を持ちにくい企業の方との協働は私にとっても財産になりましたし、小田急電鉄にとっても大きな実績となりました」
もちろんハード面だけでなく、コミュニケーションなどの面でも乗り越えるべき壁が立ちはだかりました。比留田さんはこう話します。
「行政と民間という仕事やスタイルが全く異なる組織同士ががっちり組むわけですから、意見が相反することもあります。相手の立場も尊重しながら、私たちとしてはきちんと収益につなげる必要があるので、そこをどうやってWin-Winの関係にしていくか、何度も何度も対話を重ねました。これはグループにおいても同様です。また、今回の事業は小田急電鉄が代表を務めていますが、フェアな関係でいられるようにしたいと思っています。施設の建設や施工面では地域のパートナー企業にも協力いただいていますが、『この事業を成功させたい』『いい公園をつくったね、いい施設になったね』と喜ばれるものにしたい。そうした私たちの思いが、行政や地域の皆さんにもしっかり届いたのではないかと感じています」

フェアな関係構築は行政やパートナー企業だけにとどまりません。地域に対しても同じ目線で向き合ってきました。事業を通して、地域住民との関わりもより深くなったと諏訪部さんは語ります。
「藤沢エリアはまちに愛着を持つ方がとても多い場所でもあります。自分の暮らしているまちが好きだからこそ、建設当初はさまざまな意見もありました。ですが、お一人お一人と対話してみると、不安に感じていることは皆さん違っていました。それを『できる、できない』という杓子定規な回答ではなく、対話を重ねることで住民の方の理解も少しずつ得られたように思います。街中で偶然お会いすると、『建物ができてきましたね』『オープンはいつ?』など、ポジティブな声をかけていただくことも多くありました」
さまざまなチャレンジを育み、カルチャーへ昇華させる
さらに、比留田さんは公園のテーマである“育む”に着目して、多彩なチャレンジが集まる場にもなっていると教えてくれました。
「放課後になると子どもたちでいっぱいですが、新たにスケートボードにチャレンジする初心者の方も多く見られます。また、住民の方が『何かやってみたい』と思ったときにはイベントスペースを貸し出すこともあります。この事業にチャレンジした私たちとしても、今後もさまざまなチャレンジが集まり、それを応援する場として親しんでいただけたらうれしいですね」

グループの一員で、公園の運営を担う㈱小田急SCディベロップメント湘南営業室の塩冶真奈さんもチャレンジを育む一人です。
「リニューアルによって公園全体がきれいになり、使い勝手も良くなったという声や、イベントなどを通した地域の活性化を期待しているという声も多くいただいています。今後もイベントスペースでは、地元でとれた食材の販売やグルメイベントの開催などを予定していますので、近隣の方に限らず普段藤沢を訪れない方にとっても素敵な思い出が残る公園していきたいと考えています」

最後に、将来この場所をどんな場所にしていきたいと考えているのか、諏訪部さんと比留田さんに尋ねました。
「鵠沼海岸にはハグライドパークがあって、そこに行くとスケボーもできて、湘南らしい、藤沢らしい時間を体験できる地域の名所になっているという、10年、20年後のありたい姿としてイメージしています。制度上は20年後に一部の施設を撤去しなくてはならない公園なので、施設の継続を望む声が溢れるくらいになれば、20年後の自分は浮かばれるんじゃないかと思います」(比留田さん)
「以前はスケートパークだったので、訪れる人の目的も限られていました。スケートパークとしては一定の知名度がありましたが、飲食や物販の店舗を構えていることでスケートボードと地域住民との接点が増え、垣根もなくなればと思っています。さらに、感度の高いこのまちの人々となら新しいカルチャーがつくれるんじゃないか。そういうところにも期待しています」(諏訪部さん)

「湘南といえば『鎌倉』『江の島』というイメージが先に立ちますが、藤沢にはハグライドパークがある。そう思ってもらえるような魅力発信を続けていきたい」と2人は語ります。初の取り組みとなるPark-PFI事業を経て、また一歩可能性を広げた小田急電鉄のこれからのチャレンジを、ぜひ見守ってください。
※内容は取材時のものです。