2011年度につきましては、「安全重点施策」に加え、「重点取り組み事項」に基づき、取り組みを進めてきました。

安全重点施策

  1. 安全マネジメント態勢の推進
  2. 安全のスキルアップ
  3. 安全施設の強化
  4. お客さまとの安全協働の推進

2011年度重点取り組み事項

  1. 自殺など外的要因による事象に対する発生抑制および支障時分の短縮
  2. トラブル、ヒューマンエラーに対する発生傾向等をふまえた対応・施策の実施
  3. 科学的分析手法の導入など背後要因の分析力向上
  4. 利用客のマナーアップ
  5. 緊急時・運行異常時等における旅客とのコミュニケーション充実
  6. 安全コミュニケーションシステムの効果的な活用促進
  7. 過去の鉄道内部監査結果等をふまえた部門個別の課題への取り組み

以下、安全重点施策の4項目に沿って、2011年度の主な取り組みを紹介します。

安全マネジメント態勢のさらなる整備、拡大を進めるとともに、組織レベルでの安全文化の醸成に努めました。

2008年6月、「情報の共有化」をテーマに安全管理体制を見直し、経営層から現業職場間の、双方向の情報伝達ルートを確立しました。これにより、安全に関するさまざまな取り組みについての目的意識・理解力の向上や、職場間の連携強化が図られ、安全マネジメント態勢の推進につながっています。

2011年度においては、当社を含めた小田急グループの交通事業者間における連携強化に努めたほか、部門横断的な情報共有とコミュニケーションを促すツールである安全コミュニケーションシステムの有効活用を推進しました。

また、異常時を想定した訓練の実施や、安全文化の醸成を図る目的で事故事例教材DVDを制作し、各職場に配付しました。

安全キーワード:安全マネジメント

「(運輸)安全マネジメント」とは、鉄道などの交通事業者において、経営トップから現業職場の係員まで一丸となって、企業における品質管理の自己評価基準である「ISO9000」シリーズを参考に安全管理体制を構築し、その継続的な取り組みを行うことにより、安全風土の構築、安全意識の浸透を図るという仕組みのことです。

グループワイドで安全マネジメント態勢の強化に取り組みました。

 

乗り物は違えども、同じ「安全」を最大の使命とする交通事業者間で、情報・意見交換を行うことは非常に有効なことです。そこで、2008年度より毎年、小田急グループの交通事業者16社の安全統括管理者ならびに運転管理者などが出席して、各社の安全マネジメントに関する取り組みの発表や情報交換などを行う「小田急グループ交通事業者安全統括管理者会議」を開催しています。

2011年度は、さらなる連携強化を図るべく、各事業者に対し、ニーズや課題などに対する「アンケート調査」を実施しました。その結果、「実務者レベルでの連携強化」や「交通モード別での情報共有」などについてのニーズが判明しました。2012年度から「実務者レベル、交通モード別での分科会の開催」や「実務者レベルの研修」など、新たな体制での取り組みを鋭意進めています。

迅速に情報を共有し、より効果的な安全施策を。安全コミュニケーションシステムを運用しています。

前述の「安全管理体制」の整備を図るとともに、「事故・事故の芽」情報の収集と、その対策について部門横断的な情報の共有化を進めるため、2009年4月より、「安全コミュニケーションシステム」の本運用を開始しています。

このシステムは、社員の声や事故情報を一元的に管理し、部門横断的に共有できるシステムで、これによりヒヤリ・ハットや気付きなどの社員の声が、安全にかかわる部署の所属員なら誰でも閲覧・共有できるようになったほか、一元的に集められた情報を誰でも分析できる環境となりました。そのため、定期的に支障状況(安全・安定輸送の阻害要因の発生傾向など)をまとめ、安全にかかわる全部門で共有しています。

今後も「体制」と「ツール」を有機的に結び付け、事故・トラブルなどにかかわる情報や鉄道係員の意見などについて、「情報収集→共有→分析→対策の検討、実施→対策の有効性検証」というPDCAサイクルを実践していきます。

安全コミュニケーションシステム(社員の声の展開イメージ)

[図]

安全キーワード:「事故・事故の芽」情報

「事故の芽」(ヒヤリ・ハット)情報とは、実際に発生した事故・トラブルに関する情報のみならず、そのまま放置しておくことにより事故・トラブルの発生につながるような情報のことです。

ハインリッヒの法則では、「一つの重大な事故の背景には、29の軽微な事故があり、300の異常(事故の芽)が存在する」と言われており、このような情報に基づき必要な対策を講じることにより、事故・トラブルの未然防止が図られます。

 

異常時を想定した、さまざまな訓練を実施しています。

全社的な訓練として、「鉄道テロ対応訓練」「総合防災訓練」「異常時総合訓練」を毎年実施しています。訓練後には必ず関係者を含めた反省会を行い、その効果の検証や改善点などについて意見交換し、取り扱いの見直しや、より効果的な訓練方法の立案などに生かしています。

鉄道テロ対応訓練を実施しました。

 

2011年6月に、海老名駅コンコース・自由通路で「鉄道テロ対応訓練」を警察・消防と連携して実施しました。今回は、「液体の入ったビンから異臭が発生し、お客さまが倒れていた」との想定で、「鉄道テロ対応マニュアル」の内容を踏まえ、被害拡大防止のための立入禁止区域の設定や安全な場所への避難誘導などを行いました。

大規模地震対応訓練を実施しました。

 

2011年12月、大規模地震を想定した「大規模地震対応訓練」を実施しました。これは、荒天により延期されていた「総合防災訓練」の名称を変更し、震度6以上の地震発生を想定の上、当社が定める「危機管理規則」および「鉄道防災計画【地震災害編】」に基づき実施したものです。

当日は、本社と現地などとの情報の授受や対策の検討を重点課題とし、また、東日本大震災の経験を生かし、駅間停車列車の最寄駅までの運転や運転再開のための安全確認などについて、速やかな検討・指示を行いました。

異常時総合訓練を実施しました。

 

50年近くにわたり毎年実施している「異常時総合訓練」を、2011年10月に、海老名電車基地で警察・消防と合同で実施しました。今回の訓練では、「電車が踏切で乗用車と接触し脱線、乗用車が炎上」という事故を想定し、併発事故の防止や初期消火活動、お客さまの避難誘導、負傷者の対応など多岐にわたり訓練を行いました。

訓練後の反省会では、「関係各部との事前の打ち合わせや訓練などにより、関係部門との連携が深まっただけでなく、個々人のレベルアップにもつながり、異常時対応の強化が図れた」などの意見が交わされました。

安全文化の醸成を図っています。

安全・安定輸送を絶え間なく実践するためには、安全に関する情報共有への意識向上はもちろんのこと、全社一体となった安全文化が必要です。安全文化の醸成のために、当社では2008年度より、10月1日を「鉄道安全の日」と制定しています。

輸送の安全講演会/安全シンポジウム

 
輸送の安全講演会/安全シンポジウム

2011年度は、10月6日に「第5回輸送の安全講演会」と「安全シンポジウム」を同日開催しました。

当日は、共通テーマを「伝承」とし、先輩たちが築き上げ守り続けてきた「鉄道」という"財産"を「先輩たちから承け継ぎ、また次の世代に伝えていく」(伝承)という義務感の自覚と、鉄道輸送に係る従業員の安全意識の継続的高揚を図ることを目的に、小田急グループ交通事業者の従業員も含め約400名が参加しました。

第1部の「第5回輸送の安全講演会」では、当社の鉄道の歴史に造詣の深いOBである生方良雄氏に講演を依頼し、出席者からは、「開業当初の安全・安定輸送への取り組みなど貴重な体験談を聞くことができたので、職場の後輩にも広く伝えていきたい」などの声が寄せられました。

第2部の「安全シンポジウム」では、運転車両部大野総合車両所係員と旅客営業部信号扱者が、それぞれの職場の取り組みについて発表し、出席者からは、「他職場の優れた取り組みに刺激された」「他部門の取り組みを参考に、自職場でも技能や知識の伝承を推進したい」などの声が寄せられました。

エリアミーティング

 
エリアミーティング

2008年度より、①経営管理者層と現業係員等の相互のコミュニケーションの醸成 ②エリア内の現業職場間のコミュニケーションの場の創出を目的に、「エリアミーティング」を開催し、全線を3つのエリア(喜多見、大野、海老名・秦野)に分け、毎月1エリア、年間12回開催してきました。

2011年度からは、さらなるコミュニケーションの向上に寄与すべく、「エリアごとに選出されたメンバーが複数回顔を会わせ、特定のテーマについて議論する」という方法に改め、さらに、参加者からの意見を踏まえ、下期からは、全線を4エリア(海老名・秦野地区を分割)に分割し直し、安全に関する情報・意見交換や職場見学会などが活発に行われています。

事故事例DVDの製作

事故体験を共有する取り組みとして、社員が事故の事実とその後の対応などについて話し合い、事故を風化させることなく、次世代の後輩たちに伝承できるようDVDを製作しています。

2011年度は、第2弾として「自然災害をあきらめるな! ~多摩線土砂乗り上げ脱線事故~」を製作・配付しました。今回のDVDは、1991年10月11日に黒川駅~小田急永山駅間で、長雨による影響で法面崩壊が発生し、電車が脱線した事故を題材とし、「自然災害に対して我々にできることは何か」を従業員に問いかけました。

この事故は、当社の自然災害としては最大級のものであり、復旧までに42時間を要し、約6万人のお客さまにご迷惑をおかけしました。DVDを視聴した従業員からは、「日ごろから訓練を積み重ねていくことが重要である」「関係職場との連携が大事であることを再認識した」「災害危険箇所を把握しておくことの重要性を感じた」などの声が聞かれました。

また、第3弾「事故の芽を摘み取れ ~生田4号踏切連続事故~」も製作し、各職場に配付しています。

安全に係る現業職場における部門横断的な取り組みを推進しています。

前述の「エリアミーティング」などの諸施策の効果もあり、現業職場間において、「自主プロジェクト」「合同訓練」や「他職場体験研修」などの実施を通じ、コミュニケーションの充実・強化が図られています。

現業職場間の主な取り組み

職場 主な取り組み
新宿管区/喜多見車掌区
相模大野管区/大野車掌区
駅、車掌の業務体験、相互職場見学会
新宿管区・成城学園前管区/喜多見電車区・車掌区 合同入換合図訓練の実施
成城学園前管区/喜多見電車区・車掌区 合同お客さま救出誘導訓練の実施
藤沢管区/海老名車掌区 車内警報ブザー・三方コックなどの知識教育
小田原管区/足柄車掌区 消防署と合同の事故対応研究会
小田原管区/海老名車掌区・足柄車掌区 定期的に共通の広報媒体(金太郎新聞)の発行
旅客営業部/海老名電車区 入換信号機停止現示での合同入換合図訓練
相模大野管区/電気部 電気部によるOTC(小田急型列車運行管理システム)に関する講義、勉強会
海老名電車区/大野総合車両所・検車区 ファミリー鉄道展における啓発活動

防災対策や体制の強化を進めています。

地震や異常気象に、より迅速・正確に対応できる体制づくりを推進しています。

地震や異常気象など自然災害発生時に迅速に情報をつかみ、お客さまの安全を確保し、被害を最小限に抑えることを目的に、2009年7月に「地震・気象情報監視システム」を整備しました。これは、沿線各所の震度、雨量、風速、河川の水位、レールの温度をオンラインで一元的に監視するシステムで、運輸司令所や電車区、工務区、電気システム管理所などで有効活用し、より迅速・正確に対応できる防災体制づくりを推進しています。

COLUMN:早期地震警報システム

地震・気象情報監視システムのほか、地震発生時の被害軽減のため、2006年より「早期地震警報システム」を導入しています。これは一定規模以上の地震が発生した際、気象庁から配信される「緊急地震速報」を利用し、主要動の到達予想時刻・最大予想震度など当社線への影響を瞬時に判定。被害が予測される場合には、全列車に自動的に通報することにより、運転士が手動で電車を緊急停止させるものです。

 

 

自然災害に備えた各種補強工事を順次進めています。

線路脇の斜面においては、土砂崩壊などによる事故を防止することを目的として法面(のりめん)防護工事を推進するとともに、法面の異常を検知し関係各所ならびに列車運転士に知らせる「土砂崩壊検知システム」を、全線57カ所へ設置しています。高架橋や橋梁においては、耐震補強工事を進めているほか、トンネル内についても補強工事を実施するなど、施設の強化に取り組んでいます。

 
法面防護工事
 
高架橋の耐震補強工事
 
トンネル内補強工事
COLUMN:鉄道防災計画【感染症編】

自然災害発生時の安全に対する取り組みについて、基本的な対応計画として、各対策をあらかじめ定めた「鉄道防災計画」を策定しています。これは、災害発生時の応急活動や緊急輸送ルートの確保など、各部が行うべき取り組みを事前に整備したものです。

このうちの【感染症編】では、2009年2月に国から示された「新型インフルエンザ対策行動計画」および「新型インフルエンザ対策ガイドライン」(いずれも強毒性のインフルエンザを想定)を踏まえ、お客さまと鉄道係員への感染拡大防止と列車運行の確保を図るべく、行動計画を策定しています。

 

お客さまに安全と安心を(安全報告書2012)