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競合ではなく「共創」で
楽しみながら
スタートアップと、
鉄道の課題に取り組む

澤田さん・茨木さん・和田さん・網倉さん

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小田急電鉄㈱では、JR東日本スタートアップ㈱、東急㈱、㈱西武ホールディングスの鉄道4社で構成する鉄道横断型社会実装コンソーシアム「JTOS(ジェイトス)」での活動に取り組んでいます。鉄道業界の課題を理解し、より良い社会をつくるためのアイデアやサービスを持つスタートアップなどとの協業を通じて、それを社会へと普及させていくのが狙いです。

いわば「競合」でもある4社が、なぜ手を取り合ったのか。連携することで、どのような効果があったのか。未来の「当たり前」をつくるという挑戦を続ける各社のメンバーに尋ねました。

スタートアップとの連携で社会を変える「JTOS」

JTOSの構想が動き始めたのは、2022年秋。JR東日本スタートアップの代表・柴田裕氏の呼びかけで、4社が集まり勉強会を始めたのがきっかけだったといいます。これらの勉強会などを経て、2023年9月にスタートアップ×鉄道会社で社会課題の解決を目指す「鉄道横断型社会実装コンソーシアム」としてJTOSが発足しました。全国の鉄道14社・局が参画する東京都のスタートアップ支援事業「TRIP」にも参加しています。

(澤田)JR東日本スタートアップでは、スタートアップとの協業を通じて沿線住民や利用者の方の生活をより良くする活動を展開しています。その中で、スタートアップの経営者が苦労しているポイントとして多かったのが「技術やサービスを実証するための場がない」という点でした。その中で、いろいろな事業やアセットを保有している鉄道会社グループは相性が良く、またJRだけでなく鉄道4社が揃うことで、その「場」も多くなり、それだけ社会に与えるインパクトも大きくなると考えました。

澤田さんイメージ

(和田)JTOSの構想が動き出した当時、柴田さんが話されていたのは「鉄道会社間の横のつながりがあれば、スタートアップのサービスの社会実装ももっと早くなるのでは」ということでした。そうした思いもあって、この4社での取り組みにつながったのだと思いますし、小田急電鉄としてもコロナ禍の真っただ中で、これからどうしていくのがよいのかという危機感のようなものもありました。

和田さんイメージ

(網倉)西武鉄道に限らず、鉄道会社はコロナ禍で運輸事業での収入が落ち込み、新たなビジネスモデルを生み出さねばならないという課題もありました。また、テレワークの普及によって定期券の購入者が減り、キャッシュフローが読みにくくなったのも影響が大きいですね。

(茨木)人口が減少し、人の移動も減っていく中で、私たち東急にとっても新しいまちづくりのあり方を考えるのはとても難しい課題です。そこで、1社だけではできないアイデアや動き方が、4社ならできるのではと感じていますし、大きなチャンスだったと思います。

「未来をもっとよくするアイデアやサービスを送り出したい」。そんな思いを持つスタートアップとともに、さまざまな実証が動き出すことになりました。

ともに汗をかき、互いを理解し、既存の垣根を越えた存在に

JTOSでは場所などのアセットを提供するだけではなく、実際に現場へ足を運び、スタートアップのメンバーと一緒に実証を進めてきました。

(澤田)シェアタクシー事業を展開する㈱NearMe(ニアミー)との協業では、これまで鉄道会社が手を出せなかった終電後の移動手段として、市部の主要駅の一つであるJR三鷹駅から出発するシェアタクシー事業「ミッドナイトシャトル三鷹」の実証を行いました。

ミッドナイトシャトル三鷹の事業イメージ
ミッドナイトシャトル三鷹の事業イメージ

(網倉)JTOSでは2社以上での採択を原則としているので、この事業は私たち西武グループとJRで採択をしました。西武では池袋駅出発で、都心から週末深夜出発する運行モデルで実証を行っており、現在はさらに運行モデルを広げ、ホテルを起点とした空港送迎などにも可能性を見いだして実証が進んでいます。

網倉さんイメージ

こうした、移動の利便性を高めるといった明確な社会課題を解消する取り組みだけでなく、社会に深く根付く固定観念を変容させるような事業も。

(網倉)一時保育の予約管理サービス「あすいく」を展開する㈱あすいくとの協業では、鉄道4社のアセットを生かして、電車好きの子どもたちが喜ぶ特別な体験を提供する一時保育「駅いく」を展開しています。利用される保護者の方には、子どもを預けて外出することに後ろめたさを感じてしまう方もいらっしゃいます。そんな中でも、子どもが特別な体験をして「楽しかった!」と帰ってきたら、良い経験をする機会になったとポジティブに捉えていただけるのではないかと。「預けたくなる保育」の実現を目指しています。

(茨木)「こうじゃなきゃいけない、こうだよね」という固定観念がまだまだ根強い中で、「そういうやり方があってもいいのか」という生活者にとっての新たな選択肢を提示することを通じて、社会のあり方が変わっていく一歩になっているという実感も得ています。

茨木さんイメージ

4社の連携も、JTOSという組織があることでスムーズに進められています。

(和田)ミッドナイトシャトルでは、三鷹駅発着の小田急バスのバス停を活用しています。小田急電鉄とJRがJTOSでつながっていることで、こうした会社の垣根を越えたやりとりもスムーズに進みますし、反対に私たちがいつか同様の事業や実証をやってみようと思った時には、JRや西武に知見をもらうこともでき、全てのスピード感が上がります。スタートアップとの連携にはこのスピード感も欠かせないので、小田急電鉄としても遅れをとらないように学び続けているところです。

(茨木)4社それぞれに、得意分野や役割のようなものがあることにも気付きました。明確に線引きをして「これはうち、あれはあっち」と分けることはしていないのですが、「これはあの会社が得意そうだな」とか。意思決定も4社で一斉にというのが浸透していて、一つの組織としてうまく機能していると感じます。

小さな挑戦から、先にあるより良い未来を思い描く

発足から2年が経過し、JTOSの活動も各社内で知られるようになりました。

(和田)「駅いく」の事業は現在、小田急が運営するロマンスカーミュージアムに場所を移して継続しています。事業としては別の部門へ移管した形になりますが、JTOSの活動が知られていることで社内の適切な部門に引き継ぎ本運用につなげることができています。今後はこうした社内での横展開の事例も増えていくと思います。

あすいくの事業イメージ
あすいくの事業イメージ

最後に、それぞれが描きたい「未来の当たり前」についても教えていただきました。

(澤田)自分の「こうしたい!」という思いにこだわりすぎず、協業する企業の経営者の夢や目標に共感して、同じ船に乗って進んでいきたいというイメージを持っています。それが、未来を変える動きになると信じています。

(茨木)鉄道会社の一員として、やはり人の移動やその先にあるまちを良くすることが自分の使命だと感じています。それこそ、「LUUP」のようなマイクロモビリティの普及って数年前には想像もできなかったと思うのですが、今や当たり前になっています。そんな「当たり前」を一緒につくっていきたいですね。

澤田さん&茨木さんイメージ

(網倉)大きな企業ほど課題は複雑ですし、どのソリューションが的確で正解なのか判断が難しいです。JTOSとしてスタートアップとの連携を通して新しい技術やサービスに触れ、その解決の糸口を探せることに可能性を感じていますし、スタートアップと大手の協業そのものももっと当たり前になっていたらいいなと考えています。

(和田)小田急沿線には大学なども多いことから、若手起業家や学生起業家を応援したい気持ちも強いですね。若い方は社会経験の少なさがネックになるのかもしれませんが、例えば各社の掲げているミッションやビジョン、具体的な経営計画などに共感してくれたり、そこにフィットしそうなアイデアやプロダクトを持っている企業とは協業が進めやすいだろうなと思っています。学生など若い世代の方の支援をしていくのは一つの夢ですね。

網倉さん&和田さんイメージ

社会に変容を起こす第一歩になりうる挑戦。4名の話から感じられたのは、目の前の仕事を楽しみながら「自分たちの挑戦が社会を変える」という信念と思いの強さでした。スタートアップと鉄道会社の連携から生まれた小さな挑戦が、いつか社会で当たり前に根付いたなら……。鉄道4社のチャレンジは、これからも続きます。

澤田さん・茨木さん・和田さん・網倉さん

※内容は取材時のものです。

INTERVIEWEE

JR東日本スタートアップ㈱
アソシエイト 澤田 智広さん

東急㈱
フューチャー・デザイン・ラボ 主事 茨木 唯志さん

㈱西武ホールディングス
経営企画本部 西武ラボ 課長補佐 網倉 梨香さん

小田急電鉄㈱
デジタル事業創造部 ポリネーター 和田 正輝

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