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地域の人、訪れる人
それぞれの思いを受けた
新型車両が刻む
「江ノ電との思い出」

江ノ島電鉄㈱ 早川さん、山口さんイメージ

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2026年4月19日にデビューした江ノ電の新型車両・700形。新たな車両の誕生は約20年ぶりということもあり、大きな注目を集めています。

江ノ電が走る江の島・鎌倉エリアは観光客も多く、利用者が増加する一方で、沿線にくらす方々にとっては日々の移動に欠かせない存在です。今回は、新型車両の開発に関わった江ノ島電鉄㈱の早川忠義さんと山口秀さんに、開発プロジェクトでのエピソードとあわせて、地域の方々、観光で訪れる人々にとっての“江ノ電”とはどんな存在なのか、業務を通じた思いを聞きました。

紆余曲折を経て、10年越しに実現した新型車両

新型車両の開発計画が持ち上がったのは2015年。当初は2020年の運用開始を目指していましたが、製造ラインの確保などの問題で延期に。それならと、江ノ電開業120周年の2022年を目標に進めていたところ、コロナ禍の影響などもあり、10年もの歳月をかけたプロジェクトとなりました。運転士をはじめ運行業務に長く携わり、今回のプロジェクトにも現場業務の知見を生かして関わっている早川さんは語ります。

(早川)計画当初からインバウンド需要の増加に伴う混雑が課題となりつつあり、お客さまが乗り切れない状況や、混雑による遅延も多く発生していました。さらに既存車両が老朽化し、メンテナンス性を維持するのが難しくなっていたこともあり、新しい車両の導入による輸送力の増強に乗り出したんです。

早川さんイメージ

一方、山口さんは小田急電鉄㈱からの出向者で、前任者から業務を引き継ぎ、車両設計など技術者として開発プロジェクトに参加しています。

(山口)湘南の海や江の島、鎌倉のような歴史あるまちを擁する江ノ電は、本当に日本、海外を問わず類を見ないほど魅力的な路線だと感じています。また、ここで働くようになってからは、朝夕の通勤・通学時間帯にも利用者が絶えることはなく、生活の足として地域に根付いた路線であることに気付かされました。

山口さんイメージ

乗るたびに新たな発見。車両づくりに込めた思い

新型車両・700形のコンセプトは「日常から非日常まで 想いを紡ぐENODEN」。沿線住民と旅行客の両方に目を向け、心を配った車両づくりの裏側には利用客へのこんな思いが込められています。

江ノ電の新型車両・700形の外観イメージ

(早川)乗務員、駅係員と、現場のさまざまな立場を経験してきた中で、やはり駅での業務は思い出深いんです。利用者の方と顔見知りになり、「元気?」と声をかけられたり、「よかったら食べて」とお土産をいただいたりすることもありました。江ノ電は地域と密接につながっていて、地域と共に生きているように感じています。2023年には約70年ぶりに運行ダイヤを変更しましたが、利用者の方からは「江ノ電のダイヤが生活のリズムとなっていたので、変わってしまって残念」という声があったこともあります。それだけ地域の方からの愛着も深い鉄道なのだなと実感しました。コロナ禍を含めて、日常の移動手段として変わらずご利用いただいている沿線住民の皆さんには本当に感謝しています。

山口さんも、江ノ電に対する利用者の特別な思いを感じていました。

(山口)例えば、当社へのご要望などをいただく際には「江ノ電なんだから」とおっしゃる方が多く、江ノ電ならやってくれると信頼されているのを肌で感じます。さらに、旅行で江の島・鎌倉エリアを訪れる人が観光スポットめぐりと同じように「江ノ電に乗る」という体験自体も旅程に組み込まれていて、ブランド力のようなものも実感しています。

だからこそ、地域の足として、旅行者の大切な思い出の1ページとして、日常使いにも非日常の体験にもふさわしい車両とは何なのかを考え抜いたと言います。

(山口)外観は江ノ電の伝統色であるグリーンとクリームの配色で、ひと目で江ノ電と伝わるデザインにしました。また、江ノ電が走るエリアの海や空の色、古都・鎌倉の石畳など、沿線をイメージした色やデザインも内装に落とし込み、乗るたびに新しい発見がある、そんなデザインを目指しました。

さらに、座席のクッション性を保ち、始点から終点まで快適に乗車できるよう工夫したほか、バリアフリーや、ホームで開扉するシステムの導入、側面カメラによる乗降時の安全確認といった安全性・快適性の担保、メンテナンス性向上と省エネ観点を兼ね備えた運転時の制御システムを採用し、環境にも配慮した車両となっています。

江ノ電の新型車両・700形の車体側面のカメラ
江ノ電の新型車両・700形のホーム検知システム

乗降時の安全確認の精度を上げる車体側面のカメラ(写真左)、ホームを検知してドア開扉が可能になる「ホーム検知システム」(写真右)などによって安全性の向上が図られている

他にも、車内環境のために後回しになりがちな運転席の快適性も向上。従来と比べ座席の座面の座り心地の向上と背もたれを高くし運転時の姿勢維持を助け、運転席からの視認性を高めるフィルムを窓に貼ることで、負担も軽減されるような配慮がなされています。

乗る人全てを思い、地域とともにこれからも

安全性や快適性は担保した上で、「乗る人全てにとって、江ノ電で過ごす時間がより素敵なものになってほしい」という思いの真意についても聞きました。

(山口)江ノ電といえば、やはり海への期待がとても大きく、海が見えた瞬間にお客さまから歓声が上がることも珍しくありません。そんな海の色をより鮮明に楽しんでいただきたいと思い、色鮮やかでくっきり見える特殊なフィルムを窓に貼っています。このフィルムの採用前に実施したテスト運行期間中のアンケート結果では、沿線住民の方から「日常的に利用しているので、江ノ電からの景色は見慣れたつもりだが、今回色鮮やかになった景色を見て江ノ電からの景色の良さを再認識した」と言っていただけたことが、何よりも嬉しく私の背中を押してくれました。

(早川)座席にはベンチタイプと席が向かい合うクロスタイプがあり、海側にクロスタイプを配置しています。私自身もそうですが、長年お住まいの方は山側の席から正面に海を眺めて、「今日は大島が見える、富士山が見える」と、その日その日の変化を感じていることも多いんです。もちろん、混雑緩和を大前提としながらも、旅行で訪れる方がより快適に海を眺められるにはどうすればいいのかということも考えて、こうした配置にしています。

江ノ電から見える夕暮れの海
江ノ電車内から見える海の様子

最後に、今後、江ノ電が目指す観光と日常の共存に新型車両がどう寄与していくのか、二人の思いもあわせて尋ねてみました。

(山口)新型車両の発表当初から大きな反響があり、江ノ電というブランドへの注目度の高さをひしひしと感じています。私の代で完成という形にはなりますが、前任の2名の先輩の思いも受け継いで生まれた700形が走るところを2人にも見てほしいという気持ちがありますし、いち技術者としては設計やデザインがひと段落し、今後は運用面から「日常にある当たり前のもの」として安全安定輸送を支え続けていくことが重要な責務だと感じています。

(早川)地域との共存を図る上で、今後700形は欠かせないツールになると思っています。日々ストレスなく安心して乗れる路線、そして快適な車両であることが、地域の方々に利用し続けていただく上では欠かせません。700形だけでなく、江ノ電という電車があることが地元の方の誇りと感じていただけるような取り組みを考え、実行し続けていけたらと思います。

地域の人に愛され、観光に訪れる人の心に刻まれる存在として。沿線で紡がれる日々のくらしや旅の思い出が途絶えることがないよう、江ノ島電鉄はこれからも地域と共に歩んでいきます。

踏切を通過する江ノ電

※内容は取材時のものです。
監修:小田急電鉄株式会社

INTERVIEWEE

江ノ島電鉄㈱
鉄道部 運輸課 シニアマネージャー 早川 忠義
        課長補佐      山口 秀

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