安全に対する全社員の意識向上と連携強化への取り組みを実施しました。

2006年に安全管理規程を制定するとともに安全管理体制を整備した後、1年経った時点でそれに基づく取り組みがどれくらい機能しているかを検証するため、鉄道内部監査を行いました。その結果、次の4つの課題が指摘されました。

  1. 安全マネジメントに係る全社的な推進体制の整備
  2. 「事故・事故の芽」情報の収集・分析・対策
  3. 安全に係る中期経営計画の策定
  4. 安全文化の醸成

これを踏まえ、2008年度においては、重点的に課題解決に取り組みました。

安全マネジメントに関する全社的な推進体制を整備しました。

2008年6月、「情報の共有化」をテーマに安全管理体制を大幅に見直しました。新体制では、経営層から現業職場間の、双方向の情報伝達ルートを確立するとともに、安全マネジメントにかかわる施策などが各職場まで体系的に推進できるよう、体制をあらためています。

安全管理体制

安全キーワード 安全マネジメント

「(運輸)安全マネジメント」とは、鉄道などの事業者において、経営トップから現業職場の係員まで一丸となって、企業における品質管理の自己評価基準である「ISO9000」シリーズを参考に安全管理体制を構築し、その継続的取り組みを行うことにより、安全風土の構築、安全意識の浸透を図るという仕組みのことです。

参照:国土交通省「運輸安全」

「事故・事故の芽」情報の収集・分析・対策を推進しました。

「事故・事故の芽」情報について、これまでは情報が部門内で完結する傾向にあり、有効な対策の推進を妨げる要因の一つとなっていました。

前述の、安全マネジメントに関する全社的な推進体制の整備を図るとともに、「事故・事故の芽」情報の収集とその対策について部門横断的な情報の共有化を進めたところ、2007年11月~2008年10月の一年間で約3,000件の情報が集まりました。これに対して必要な対策を講じ、一定の成果を得ることができました。

さらに、より迅速な情報の共有化と累積データの分析による対策検討を効果的に行うようにするため、「安全コミュニケーションシステム」を整備し、2009年4月より運用を開始しています。

以上、「体制」と「ツール」を有機的に結び付けることにより、事故・トラブルなどにかかわる情報や鉄道係員の意見などについて、「情報収集→共有→分析→対策の検討、実施→対策の有効性検証(対策に関する意見収集→共有→分析→改善策の検討、実施)」というPDCAサイクルが確立されました。

安全コミュニケーションシステム

安全コミュニケーションシステム

「事故・事故の芽」情報のほか、事故・トラブルや意見、気付きなどの社員の声を閲覧できるシステムが、安全コミュニケーションシステムです。これまでの紙ベースから一転、情報の収集・共有がスムーズに行われ、スピーディーな解決方法の計画・実施につながることが期待されています。

さらに、データベースとしての運用も可能で、登録された情報を種別や原因、期間ごとに分類することができ、効率的な分析にも役立ちます。2009年2月より試運用を開始し、4月より本運用しています。

安全コミュニケーションシステム
COLUMN 「ヒヤリハット事例集」の発行

ヒヤリハット事例集

ヒヤリハット(事故の芽)は、多くの仲間と共有することで、仲間のヒヤリハットを自分のものとしてとらえて事故防止につなげていくことが大切です。そのため、これまでも各職場においてヒヤリハット事例の収集に努めてきました。

ただし、ヒヤリハット事例をいくら集めても「よくあること」として聞き流していては意味がありません。そこで、2008年度に発行した「ヒヤリハット事例集」では、ヒヤリハット事例に加え、ヒヤリハットで済まなかった事故事例をセットで掲載し、実際に事故に至ってしまった事例と同じようにヒヤリハット事例を受け止められるよう工夫しました。

この「ヒヤリハット事例集」は全鉄道係員に配布され、事故防止に役立てています。

安全キーワード 「事故・事故の芽」情報

「事故の芽」情報とは、実際に発生した事故・トラブルに関する情報のみならず、そのまま放置しておくことにより事故・トラブルの発生につながるような情報のことです。

ハインリッヒの法則では、「一つの重大な事故の背景には、29の軽微な事故があり、300の異常(事故の芽)が存在する」と言われており、このような情報に基づき必要な対策を講じておくことにより、事故・トラブルの未然防止が図られます。

「事故・事故の芽」情報

安全キーワード PDCAサイクル

PDCAサイクルとは、デミングらによって提唱されたマネジメントの手法であり、P(PLAN:計画)-D(DO:実施)-C(CHECK:評価)-A(ACT:改善)というプロセスにより、改善の結果を次の計画に反映させるというものです。

当社では、安全に関する種々の取り組みについて、この手法に基づき、さらなる改善に努めています。

PDCAサイクル

安全への取り組みについて中期経営計画を策定しました。

「統括安全マネジメント委員会」において安全に対する取り組みについての方針を明確に示し、具体的な「安全重点施策」を策定しました。

安全重点施策

安全に対する取り組みについて、次の5つを重点施策として挙げています。

  1. 安全マネジメント態勢の強化
  2. 事故の未然・再発防止と発生後の対応強化
  3. 防災対策・体制の強化
  4. 安全のスキルアップとヒューマンエラー防止
  5. 安全文化の醸成

安全努力目標

事故と輸送障害件数を減らすことによって得られる「安全」、列車が止まってしまう支障時間を減らすことによって得られる「安定」。そして、小田急アンケートモニターを対象に安全に関するアンケートを行い、その数値化によって見える、お客さまが当社にいだく「安心」。それぞれについて目標値を設定することにより、鉄道係員全員の積極的な安全への取り組みを促しています。

この、「安全」「安定」「安心」の頭文字をとり、「信頼のトリプルA(AAA)への挑戦」という標語を作成し、社内ポスターなどで周知を図っています。

安全文化の醸成に努めました。

エリアミーティング。毎月1回、1エリアで開催
エリアミーティング。毎月1回、1エリアで開催

安全に関する情報共有への意識向上だけでなく、安全そのものへの共通意識を養い、意思統一を図ることによって、全社一体となった安全文化の醸成を目指しています。そのために、2008年度は、コミュニケーション機会の創出などに力を注ぎました。

2008年4月より実施している「エリアミーティング」は、これまで以上に、全社的に安全対策を推進するための、部門を超えたコミュニケーションの場となっています。安全統括管理者をはじめ、関係部門の各部長、現業部門の各担当者が参加し、喜多見、相模大野、海老名・秦野の3エリアごとに、それぞれの取り組みや施策などについて意見を交わし、部門間の連携強化を図っています。

ヒューマンエラーに関する講演会
ヒューマンエラーに関する講演会

また、2008年より10月1日を、当社における「鉄道安全の日」として定め、過去の事故・トラブルや安全性向上への取り組みを確認する機会としています。2008年度においては、同日に「安全シンポジウム」を初めて開催しました。

「安全シンポジウム」では、ヒューマンエラーを専門分野とする慶應義塾大学の岡田教授をお招きし、事前に行った安全管理規程にかかわる社員に対するアンケート結果を基に、ヒューマンエラーに関する講演会を行ったほか、各部・職場の安全に関する取り組みについての発表会を開催しました。

TOPICS 国土交通省に当社の取り組みが評価されました。

2008年度の安全に関する取り組みが評価され、全般的に安全管理体制の構築・改善への取り組みが進んでいる事業者として、国土交通省のホームページ上で当社が紹介されました。

国土交通省

COLUMN 小田急グループとしての安全対策への取り組み

小田急グループとしての安全対策への取り組み

小田急グループでは、当社をはじめ、鉄道、バス、タクシーなどの交通事業を展開しています。乗り物は違えども、同じ「安全」を最大の使命として掲げており、グループ各社間で安全に対する情報交換を行うことは非常に有効なことです。そこで、2008年11月、「第1回小田急グループ交通事業者安全統括管理者会議」を開催しました。

鉄道、索道、バス、タクシー、船舶の交通事業16社が参加し、同会議では、安全マネジメント態勢の運営についてグループ各社が情報を共有することで、さらなる安全マネジメント態勢の強化を図りました。また、国土交通省から主任運輸安全調査官をお招きし、運輸安全マネジメント制度に関する講演を拝聴しています。

お客さまに安全と安心を(安全報告書2009)