安全対策の強化
基本理念
当社は、役員・社員の一人一人が常に心がけるべきものとして、[小田急電鉄は、日本一安全な鉄道をめざします。]との基本理念を掲げています。
安全管理の組織と体制
2006年10月、当社はお客さまの安全を守るべく、「安全管理規程」を制定し、社長を最高責任者とし、安全確保に関する業務を統括する「安全統括管理者」を中心に各部門で管理者を定め、それぞれの責務と役割を明確にしています。
また、この安全統括管理者を委員長とし各部門の管理者が委員を務める「統括安全マネジメント委員会」を中心に、各部門の本社および現業職場それぞれに「安全マネジメント委員会」を設け、安全に関する指示・伝達、情報連絡・共有および諸施策の検討・実施などを行う管理体制を構築しています。
安全管理の組織体系(イメージ)
安全管理の体制
安全管理の方法
PDCAサイクルを基本とした、安全管理
「基本理念」に則った具体的な取り組みを実践すべく、安全性向上のための全社的な「安全努力目標」を設定するとともに、各部門における取り組みの方向性を整えた「安全重点施策」を策定しています。
また、毎年「鉄道内部監査」を実施し、安全管理体制が有効に機能しているかどうかの検証を行うなど定期的な見直し・改善を図っています。
PDCAサイクル
PDCAサイクルとは、P(PLAN:計画)-D(DO:実施)-C(CHECK:評価)-A(ACT:改善)というプロセスにより、改善の結果を次の計画に反映させるというものです。
当社では、安全に関する種々の取り組みについて、この手法に基づき、さらなる改善に努めています。
設備投資
当社では、より安全・安心で便利・快適な鉄道サービスの提供を目指し、「安全対策の強化」と「サービスの向上」を重点として、設備投資を実施しています。
鉄道部門の設備投資額の推移
2024年度の設備投資計画
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1. 安全対策の強化
相模大野駅と海老名駅、中央林間駅、大和駅の全14ホームでホームドアを使用開始します。その他の駅においても、ホームドア設置に向けた準備に着手します。また、橋梁をはじめ鉄道施設の耐震補強工事を行い大規模地震に備えるほか、列車内での犯罪抑止や事件の早期解決等を目的に、車内防犯カメラの設置を推進します。
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2. サービスの向上
通勤車両「5000形」を2編成新造するほか、「3000形」3編成をリニューアルします。また、継続的に実施している駅舎 改良工事では、中央林間駅で前述のホームドア設置とともにホームと車両乗降口の間の段差と隙間の 縮小工事等を実施し、鶴川駅と藤沢駅では橋上駅舎化に向けた工事を推進します。
駅・ホームの取り組み
ホームドア
お客さまのホームからの転落や列車との接触を防止するホームドアを、これまで新宿駅(4,5,8,9番ホーム)・代々木八幡駅・代々木上原駅・東北沢駅・下北沢駅・世田谷代田駅・梅ヶ丘駅・登戸駅・町田駅・本厚木駅に設置しました。今後も新宿駅から本厚木駅までの各駅と中央林間駅、大和駅、藤沢駅へ優先して設置を進めていきます。
ホーム固定柵
「駅ホームにおける安全性向上のための検討会(中間とりまとめ)」の整備方針に基づき、新宿、小田原、藤沢、片瀬江ノ島、唐木田の5駅に、線路終端部側の列車の停まらない箇所へホーム固定柵を設置しています。
内方線付点状ブロック設置とホーム先端部の塗装や表示
線路への転落や、ホームと列車との隙間への転落を防止するため、ホームの内側を分かるようした「内方線付点状ブロック」を全70駅に整備しています。また、一部の駅・ホームにおいてホーム先端部をオレンジ色に塗装しています。ホームの幅が狭くなっている部分には注意表示を設置し、お客さまへの注意喚起を行っています。
車両連結部への外幌の設置
乗車時の転落を防ぐため、全編成の連結部分に外幌を設置しています。
先頭車同士の連結部分については外幌の設置はありませんが、3000形の一部およびMSE(60000形)で自動放送による注意喚起を行っています。
お客さま転落時の安全対策
万一、線路に転落した際に、速やかにホームに戻るためのステップを全駅に設置しているほか、一時的に避難することのできる待避スペースを設けています。
非常停止ボタン
お客さまが線路に転落した場合など、当該駅に接近している列車を緊急停止させる「非常停止ボタン」を全駅に備え付けています。
転落検出マット
曲線ホームには、乗降時、お客さまが転落した場合にブザーが鳴動し表示灯が点灯することで乗務員に異常を知らせる「転落検出マット」を設置しています。
車両の取り組み
ATS(自動列車停止装置)
ATSは、列車が制限速度を超えて信号機や急曲線、分岐などを通過しようとした際に、自動的にブレーキを作動させて減速または停止させる装置です。
当社では2015年度よりD-ATS-P※を全線で導入しています。この装置は、従来のATSと比較して、レールからの信号現示情報や、地上子による距離情報などの多くの情報の授受ができるため、細かな速度制御が可能であり安全性が向上するとともに、情報をリアルタイムに列車へ伝達することができるため、信号が上位に変化した時に速度アップするまでの間隔が短くなり運転効率も向上します。
D-ATS-P:Digital Automatic Train Stop Patternの略
脱線防止ガード
曲線半径400m未満のすべての曲線とすべての側線用分岐器および曲線半径150m未満の曲線を有する分岐器に脱線防止ガードを設置し、列車の走行安全性を確保しています。
また、踏切事故が発生した際の被害を軽減するため、踏切部への脱線防止ガード設置を2019年度より進めています。
運転状況記録装置
事故が発生したときなどに情報を活用できるよう、列車の速度やブレーキなどの運転状況を記録する装置をすべての車両に設置しています。
防護無線
列車運行中に事故などの異常が発生した際、付近を走行する列車にもその情報を瞬時に伝えて緊急停止させる「防護無線」をすべての列車に導入しています。
緊急ブレーキ装置
運転士に、体調の急変など不測の事態が発生した際にも安全を確保することができるよう、運転士が1分以上、加速やブレーキなどの操作を行わない場合には、非常ブレーキがかかるEB装置(運転士異常時列車停止装置)を導入しています。
閉扉時の安全対策
通勤車両は、閉扉時に物などが挟まることにより「11mm以上」の隙間が生じた場合、列車を運行することができないシステムになっています※。また、閉扉時に一時的に扉の圧力を弱める機能を順次設置し、扉に挟まれた際の事故防止を図っています。
通勤車両4000形、5000形を除く
運輸司令所
運輸司令所では、OTCを活用し、全線全列車の運行を24時間体制で管理しています。
OTC(小田急型列車運行管理システム)
OTCは、駅の信号機やポイントなどをコンピューターで自動制御するシステムです。1990年に全線への設置が完了しています。
早期地震警報システム
地震発生時の被害を軽減するため、2006年度から、早期地震警報システムを導入しています。
これは、一定規模以上の地震が発生した際に、気象庁から配信される緊急地震速報を利用して、主要動が到達する前に、最大予想震度など当社線への影響を瞬時に判定し、被害が予測される場合には全列車に自動的に緊急停止信号を通報することにより、運転士が直ちに列車を停止させるものです。
地震・気象情報監視システム
全線各地に設置された各種計測機器により、雨量、風速、地震(ガル値)、河川水位、レール温度などのさまざまな観測値を24時間体制でリアルタイムに収集し、一括監視が可能な「地震・気象情報監視システム」を導入しています。
それぞれの観測値が規制値に達した場合は、同監視システムに警報が鳴動・表示され、運転規制などの対応を即時に実施しています。
保守の取り組み
車両
1,000両以上ある車両の検査を確実かつ効率的に行うため、一定の周期ごとに検査項目を定め、相模大野にある総合車両所と、喜多見・海老名にある検車区で、計画的な保守点検を実施しています。
総合車両所
機器類を細部まで分解して検査しているほか、部品の修理や各種性能試験などを実施しています。
検車区
台車や制御装置など、主要機器の検査を行っています。
検査の種類と概要 | ||
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総合車両所 | 全般検査 | 内容:ほぼすべての部品を分解して実施する最も厳重な検査 周期:8年以内に1回 |
重要部検査 | 内容:主要機器を分解して検査 周期:4年または走行距離60万km以内に1回 ※3000形、4000形は検車区施工 |
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列車検査 | 内容:主要機器の検査 周期:12日以内に1回 |
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検車区 | 年検査 | 内容:主要機器の検査、動作確認 周期:1年以内に1回 |
月検査 | 内容:主要機器の検査、動作確認 周期:3ヶ月以内に1回 |
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列車検査 | 内容:主要機器の検査 周期:12日以内に1回 |
軌道・架線
終電から初電までの短い時間に行われる保守作業の効率化を図るとともに、精度を一層高めるため、高性能の大型保守作業車を積極的に導入しています。
マルチプルタイタンパー
砕石のつき固めを行い、線路のゆがみを直す保線機械。1台保有。
バラストスイーパー
マルチプルタイタンパーの作業後、砕石を整備する保線機械。1台保有。
レール削正車
列車の走行によって生じた、レール表面の傷や凹凸をグラインダーで削り、形状を整える保線機械。1編成保有。
レール探傷車
超音波を使用して、レールの表面だけでなく、外観からでは分からない内部の傷も検査する保線機械。1台保有。
総合検測車「テクノインスペクター」
レールのゆがみや架線の摩耗状況を日中に走行しながら調べることのできる総合検測車。1両保有。
レール溶接車
レールをフラッシュバット溶接により溶接する保線機械。1台保有。
その他の主な保守作業車 | ||
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名称 | 用途 | 保有台数 |
軌道モーターカー | ダンプトロリー、レール運搬車のけん引 | 12 |
ダンプトロリー | 砕石などの運搬 | 12(2編成) |
レール運搬車 | レール交換時の運搬 | 6(3編成) |
タワー車 | 高所での架線の保守・点検作業 | 6 |
延線巻取車 | 架線張り替え時の延線・巻き取り | 1 |
軌道モーターカー
省力化軌道
複々線化された高架区間などには、マクラギとこれを支えるコンクリートブロックとの間に合成ゴム製の弾性材などを挟んだ「弾性マクラギ砕石軌道」やレールと同一方向の縦マクラギでレールを支える「フローティングラダー軌道」を導入しています。また、都市近郊区間には、縦マクラギ構造を有する「バラストラダー軌道」を導入しています。これらにより、保守作業の軽減が図られています。
踏切の取り組み
立体化等による踏切の廃止
踏切における安全対策として、最も効果的なものは、線路と道路との立体交差化による踏切の廃止です。1955年以降、現在に至るまで、計247カ所の踏切を廃止してきました。今後も、自治体などと協議しながら、立体化や統廃合による踏切の廃止を進めます。
踏切支障報知装置
踏切内で車がエンストするなどした際、非常ボタンを押すことにより、特殊信号発光機が、接近する列車に異常を知らせて緊急停止させる「踏切支障報知装置」を全踏切229カ所に設置しています。
踏切障害物検知装置
踏切内の障害物を検知する「踏切障害物検知装置」を139カ所の踏切に設置しています。障害物を検知した場合には、自動的に「踏切支障報知装置」を作動させ、付近の列車を緊急停止させます。
また、2016年度より検知能力の高い新たな踏切障害物検知装置の導入を進めています。
踏切数の推移
踏切の視認性向上
ドライバーが、遠くからでも踏切を認識できるよう、道路上に警報機をかぶせた「オーバーハング型踏切警報機」を20踏切に設置しているほか、遮断桿の太さを通常の約2倍にした「大口径遮断桿」を7カ所の踏切で採用しています。
踏切集中監視システム
踏切保安装置の故障による事故を未然に防止するほか、踏切事故発生時により迅速な対応を行うため、電気司令所などで、すべての踏切の状態をリアルタイムに監視できる「踏切集中監視システム」の導入を2008年度に完了しました。
その他
電気司令所
運輸司令所に隣接する電気司令所では、変電所の運転状態や全線への送電状況を24時間体制で監視し、電力の安定供給に努めています。
変電所
全線に29カ所ある変電所では、列車運転用電力(直流1,500V)と駅施設や信号設備などに用いられる付帯用電力(6,600V)の供給を行っています。
列車運転用電力については、車両更新や変電所の効率運転などを進め、削減に努めています。また、付帯用電力については、エレベーターをはじめバリアフリー設備やホームドアの新設などに伴い設備は増加していますが、電力量が増加しないよう省電力機器の導入を推進しています。なお2023年度の総電力消費量3億2729万kWh、一日当り89.4万kWhとなっています。
安全シンポジウム
「安全管理規程」を制定した10月1日を「鉄道安全の日」と定め、毎年この時期に全社一体となって安全に対する組織風土の醸成と安全意識の高揚を図ることを目的として、「安全シンポジウム」を開催しています。当社のほか小田急グループの鉄道、バスなど交通に携わる社員が参加して安全への意識を高めています。
啓発活動
毎年、春・秋の全国交通安全運動に合わせて、沿線の小学生を対象に踏切横断時の注意事項などを記載したステーショナリーグッズなどを配布しています。
また、置き石や投石といった列車運転妨害行為が引き起こす影響の重大性を伝え、こうした行為の未然防止を図るため、小学校のPTAなどを通して保護者の方々への周知も進めています。
さらに、事故防止のために、駅ホームや踏切の非常ボタンなどの正しい取り扱い方法の認知向上にも取り組んでいます。
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