輸送の安全を確保する人材の育成を行っています。

新人車掌の教育の充実を図りました。

車掌養成教育

 車掌には、安全に扉を操作して列車を出発させるための知識・技能が必要であることは当然ですが、体験不足に起因した事故を防止するためには、新人教育を充実させることが必要です。そこで、これまでの運転士教育と同様、車掌にも単独後3年間にわたる追指導期間を設け、小田急型教育シミュレーターでの体験訓練を豊富にするなど教育プロセスを改善しました。

新人車掌の教育

乗務員フォローアップ研修を導入しました。

乗務員フォローアップ研修

 経験年数が6年を超えた運転士、車掌全員に対し、5年ごとに研修を行なう「乗務員フォローアップ研修」を導入しました。
 会社からの一方的な研修内容ではなく、日々、運転業務に携わる主任運転士ならびに主任車掌が研修内容を立案し、講師役を務め、乗務員として必要な各作業の急所や裏付けを再確認することで、安全に対する意識の向上を図っています。また、キャリアや年齢が異なる者が一同に会すということもあり、自然と安全に対する議論が交わされ、乗務員としての資質の維持・向上だけでなく、安全文化の醸成にもつながっています。

信号駅扱い訓練の、一層の充実を図りました。

信号取り扱い訓練

 信号駅扱い訓練については、係員の技能維持を図るために毎月、職位、経験別に訓練時間を決めて実施してきましたが、過去に発生した信号駅扱いに関するヒューマンエラーを分析してみると、職位、経験にかかわりなく発生していることが分かりました。これを受け、2008年度からは、信号駅扱いの訓練時間を職位、経験にかかわらず毎月8時間とし、「信号扱者」のレベルアップを図っています。

安全キーワード 信号駅扱いとOTC
 小田急線では、一日におよそ1,700本の列車(回送列車を含む)が運行しています。これらすべての列車をダイヤ通りに運行させるために、各駅での信号機や進路、行先・列車種別の設定などの運行管理を、通常、運輸司令所において「OTC(小田急型列車運行管理システム)」を駆使し、行っています。
 しかし、事故・トラブルなどにより列車ダイヤに大幅な遅れなどが生じた場合、一刻も早く通常ダイヤに復すべく、ダイヤ整理(列車の行先・種別変更や運休など)を行う必要があります。このような場合、OTCによる列車運行管理から、運輸司令所の係員と停車場(分岐器のある駅)に配置された信号扱者による列車運行管理に切り換えて対応(信号駅扱い)しています。
 社内での選抜試験、教育、見習い期間を経た「信号扱者」は、普段は、「駅サービス係」としてお客さまの案内、ホームの安全確認などの業務に就いていますが、いざ異常時の際には、駅内の「信号扱い所」に詰め、「信号卓」を操作し、運行管理の業務にあたります。このため、「信号扱者」は、日常的に「信号駅扱い」の訓練を行い、技能の維持・向上に努めています。

技術技能の伝承と技術力の向上に努めています。

 ベテランが蓄積している知識や技能の確実な継承、若年者層を含めた全係員の技術力の向上が、特に技術系職場で課題となっています。そこで、技術系職場を中心に「技術競技会」「保全業務技能認定制度」「技術研究発表会」などを実施し、技術の伝承と技術力の向上に努めています。

COLUMN 安全のための自主プロジェクト

 つい見逃してしまいがちな小さなこと。しかし、安全確保につながるとても大切なことがあります。当社車両担当では、そんな身近な安全への第一歩に取り組んでいます。2008年度においては、ゴム製品の劣化調査や周期交換を進める「車両ゴム製品プロジェクト」、視認性や透過性が落ちた客室窓ガラスの汚損防止対策に取り組む「車両清掃プロジェクト」などの横断的な各種チーム活動に取り組み、その成果を安全輸送に生かしています。

■2009年度 車両担当プロジェクト活動計画

  1. 車両ゴム製品プロジェクト ※
  2. フラット(車輪削正)プロジェクト
  3. 車両検修管理システムプロジェクト
  4. 車両清掃プロジェクト ※
  5. 車両電子機器プロジェクト
  6. D-ATS-P設計プロジェクト ※
  7. 工場予算作成システム研究会
  8. 情報カード改善研究会
  9. 検車区収容計画システム化研究会

※2008年度より継続実施

プロジェクト発表会の様子
プロジェクト発表会の様子

異常時を想定した、さまざまな訓練を実施しています。

鉄道テロ対応訓練を行いました。

鉄道テロ対応訓練

 2008年度は、5月に唐木田車庫において、7月に開催された北海道洞爺湖サミットを前に「車内で不審物によるテロが発生した」という想定の下、連絡体制の確認や消防署、警察署と連携した避難誘導訓練などを重点的に行いました。参加者数は、当社関係者約100名、消防・警察関係者約60名。訓練終了後、第三方面本部救助機動部隊消防司令長より、テロ発生時の鉄道係員としての対応についてなどの講習を受けました。

防災訓練を実施しました。

防災訓練

 毎年9月、地震発生および発災までを想定した「防災訓練」を実施しています。訓練では、危機管理規則に基づき、総合対策本部を設置。鉄道対策検討チームと鉄道現地対策チームの相互間における、情報伝達・収集訓練や列車の一旦停車訓練を行っています。

 2008年度は、東京湾北部地震を想定し、情報伝達・収集訓練および発災後の復旧計画を策定する訓練を実施し、危機管理コンサルタント会社によるチェックを受け、体制や規則類の改善を図りました。

異常時総合訓練を行いました。

異常時総合訓練

 40年以上にわたり毎年実施している「異常時総合訓練」。これは、海老名電車基地を舞台に鉄道事故を想定し、事故や災害発生時における負傷者の救出、併発事故の防止、事故の早期復旧に必要な知識・技能の向上を目的に、地元の消防署や警察署とも連携した大規模な訓練です。

 2008年度は、「列車が踏切内に進入した乗用車と衝突し、乗用車は炎上、列車は脱線」という想定のもと実施。箱根登山鉄道(株)、(株)小田急エンジニアリングといったグループ会社も参加し、総勢600人が連携して、異常時の対応を確認しました。

主な実施内容

  1. 消防隊との協力による負傷されたお客さまの救出
  2. 消火活動とお客さまの避難誘導
  3. 早期復旧作業の実践
  4. 危機管理規則に基づく現地対策チームの実務確認

列車運転時の安全確保に努めています。

新列車制御システム(D-ATS-P)の導入を進めています。

 新列車制御システム「D-ATS-P(Digital Automatic Train Stop Pattern)」とは、先行列車に追突しないよう信号情報を連続的に各列車に伝え、ブレーキを自動的に作動させることを可能にするものです。例えば、踏切内で支障報知装置が動作した際は、接近してくる列車に危険情報を知らせ、自動的にブレーキがかかります。また、最新のデジタル技術を駆使し、急曲線・分岐器・下り勾配などでのきめ細やかな速度制御も可能となっています。

 D-ATS-Pの導入により、列車運行の安全性がさらに向上することから、全線設置を目指したシステム構築を進めています。

運転士に万が一があったときを想定した装置の導入も進めています。

 運転士に体調の急変など不測な事態が発生した際に備えて、加速中に運転士がハンドルから手を離した場合には、自動的に非常ブレーキがかかる装置、もしくは自動的に加速を解除させる装置を全車両に導入しています。

 また、さらに安全性を高めるため、運転士が1分以上、加速やブレーキなどの操作を行わない場合に非常ブレーキがかかる装置を、2008年度末現在、181編成中95編成(全体の約52%)に導入しており、今後も順次導入を進めていきます。

下北沢駅付近のシールドトンネル工事による万が一の事態に備えて、鉄道輸送の安全確保に万全を期しています。

表示灯

 全線が地下化される東北沢~世田谷代田間の複々線化工事区間では、列車の運行を確保しながら線路の直下にトンネルを構築するという非常に難しい工事を進めています。

 その中でも、小田急線の最混雑区間である世田谷代田~下北沢付近の線路直下で実施中のシールドトンネル工事は、井の頭線と交差し、一日に約13万人がご利用される下北沢駅を抱えており、事故が発生したときの社会的な影響は計り知れません。

 そこで、シールド工事の実施にあたっては、有識者による安全性の検討、地盤状態の24時間体制での監視、異常時に列車を緊急停止させる表示灯の設置など、万が一に備えて、鉄道輸送の安全確保に万全を期しています。

より安全なホームづくりに取り組んでいます。

駅ホーム事故防止対策検討チームを結成しました。

 統括安全マネジメント委員会の諮問を受け、各部門から横断的に構成されたプロジェクトチームの一つが、「駅ホーム事故防止対策検討チーム」です。輸送の安全にかかわる各部門の専門的見地に基づく知識・アイデアを持ち合い、駅ホームにおける安全対策について検討を進めています。

ホーム柵設置に向けたTASC導入の調査・研究を行っています。

 ホーム上でのお客さまの安全を守るため、ホーム柵の設置を検討しています。しかし、そのためには全車両・全編成を常に定位置に停車させる必要があり、定位置停止支援装置「TASC」の実験・検証を多摩線にて行っています。

 TASCは、列車が駅に到着する際に、自動的にブレーキをかけて定位置に停止させるための運転支援装置です。駅の手前に設置された地上子という装置から停止位置までの距離情報を列車に送信し、速度パターンを発生させ、そのパターンに実際の列車速度が追随するようブレーキを制御します。

列車非常停止ボタン一体型構内監視ポールを設置しています。

列車非常停止ボタン

 ホームからの転落など万が一に備え、全駅のホーム上には、「列車非常停止ボタン」を設置しています。また、ホーム上には、事故やトラブルの際に駅係員と連絡を取る、または駅係員を呼び出す「駅係員呼出用インターホン」の導入も進めており、2008年度末現在、約7割の駅に設置しています。

 当社では、状況に応じての使い分けをお願いしていますが、まれに「列車非常停止ボタン」と「駅係員呼出用インターホン」を誤って押してしまうケースが発生しています。そこで、お客さまの視認性・使いやすさを考えて、「列車非常停止ボタン」と「駅係員呼出用インターホン」、そして「遠隔監視カメラ」を一体化させたポール型ユニットを、渋沢駅にて試験的に設置しました。

鶴川駅(下り)ホームの拡幅工事を実施しました。

ホームの拡幅工事

 近年、乗降人員が増加した鶴川駅では、下りホームの一部が狭く、お降りになったお客さまが黄色い線より列車近くを歩行するケースが多くありました。車掌はお客さまが安全な場所まで移動してから列車を出発させていますが、出発した後に列車に近付いてしまうケースも多く、また、安全な場所に移動するまで時間を要することから、2008年度に鶴川駅(下り)ホームの拡幅工事を実施しました。

 夕方ラッシュ時間帯に停車する列車を対象とした調査結果によると、拡幅工事により、お客さまが安全な場所まで移動する時間が平均8秒短縮され、お客さまからもご好評をいただいています。

踏切での事故・トラブルの未然防止に取り組んでいます。

踏切集中監視システムの設置が完了しました。

踏切集中監視システム

 踏切保安装置の故障などによる事故を未然に防ぐため、電気司令所ならびに電気システム管理所で、踏切の状態をリアルタイムに監視できる「踏切集中監視システム」の複々線化工事区間(代々木上原~梅ヶ丘間)を除く全線設置が、2008年度に完了しました。

 また、踏切集中監視システムの設置に伴い、監視中であることを警告した「監視警告板」を列車運行妨害の多かった11踏切に対し設置したところ、当該踏切で2006~2008年度上期までの2年半の間に40件発生していた列車妨害が、2008年12月~2009年7月までの8ヶ月で1件しか発生しておらず、踏切における列車運行妨害の抑止にもつながっています。

踏切事故防止対策検討チームを結成しました。

 統括安全マネジメント委員会の諮問を受け、各部門から横断的に構成されたプロジェクトチームの一つが、「踏切事故防止対策検討チーム」です。輸送の安全にかかわる各部門の専門的見地に基づく知識・アイデアを持ち合い、踏切での安全対策について検討を進めています。

踏切の視認性を向上させました。

 ドライバーなどが遠くからでも踏切を認識できるように、次のようなさまざまな取り組みを行っています。

全方向閃光灯(5カ所)。全方向から視認できるよう円筒型(提灯型)の関光灯を採用したもの

全方向閃光灯(5カ所)。全方向から視認できるよう円筒型(提灯型)の関光灯を採用したもの

オーバーハング型踏切警報機(15カ所)。道路上に警報機をかぶせたもの

オーバーハング型踏切警報機
(15カ所。うち2008年度は1ヵ所採用)。道路上に警報機をかぶせたもの

2段型遮断機(3カ所)。遮断桿を上下2段に組み合わせたもの

2段型遮断機(3カ所)。遮断桿を上下2段に組み合わせたもの

大口径遮断桿(7カ所)。遮断桿の太さを通常の約2倍にしたもの

大口径遮断桿(7カ所)。遮断桿の太さを通常の約2倍にしたもの

防災対策や体制の強化を推進しています。

自然災害対策を強化しました。

 高架橋・橋梁の耐震補強工事や法面(のりめん)防護工事、トンネル内補強工事など自然災害に備えた対策を順次進めています。法面においては、崩壊による事故を防止し、安全な列車運行を確保するために「土砂崩壊検知システム」を全線57カ所に設置し、使用を始めています。河川においては、水位計と監視カメラを3カ所に新設するとともに、雨量計を5カ所に、レール温度計を2カ所に増設しました。

土砂崩壊検知システム
土砂崩壊検知システム
高架橋の耐震補強工事
高架橋の耐震補強工事
法面防護工事
法面防護工事
トンネル内補強工事
トンネル内補強工事
橋梁の耐震補強工事
橋梁の耐震補強工事

COLUMN 早期地震警報システム

 地震発生時の被害軽減のため、2006年より「早期地震警報システム」を導入しています。これは一定規模以上の地震が発生した際、気象庁から配信される「緊急地震速報」を利用し、主要動の到達予想時刻・最大予想震度など当社線への影響を瞬時に判定。被害が予測される場合には、全列車に自動的に通報することにより、運転士が手動で列車を緊急停止させるものです。

早期地震警報システム

早期地震警報システムの概要

「鉄道防災計画」を策定しました。

 自然災害発生時の安全に対する取り組みについて、基本的な対応計画として、各対策をあらかじめ定めた鉄道防災計画を策定しました。これにより、災害発生時の応急活動や緊急輸送ルートの確保など、各部が行うべき取り組みを事前に整備しておくことができ、的確かつ迅速な対応が可能な体制となりました。

COLUMN 鉄道防災計画【感染症編】

 2009年の2月に国から示された「新型インフルエンザ対策行動計画」および「新型インフルエンザ対策ガイドライン」を踏まえ、お客さまと鉄道係員への感染拡大防止と列車運行の確保を図るべく、「鉄道防災計画【感染症編】」を策定しました。

 これにより、お客さまに安心してご利用いただけるよう、備蓄品の配備や発生段階などに応じた鉄道係員の行動計画を定め、新型インフルエンザの発生に備えています。

鉄道防災計画(感染症編)

お客さまに安全と安心を(安全報告書2009)