2012年度につきましては、前述の「安全重点施策」「重点取り組み事項」に基づき、取り組みを進めてきました。

以下、安全重点施策の4項目に沿って、2012年度の主な取り組みを紹介します。

安全マネジメント態勢のさらなる整備、そして拡大の推進と組織レベルでの安全文化の醸成に努めました。

「情報の共有化」をテーマに安全管理体制を見直し、経営層から現業職場間の、双方向の情報伝達ルートを確立しました。これにより、安全に関するさまざまな取り組みについての目的意識・理解力の向上や、職場間の連携強化が図られ、安全マネジメント態勢の推進につながっています。

安全キーワード:安全マネジメント

「(運輸)安全マネジメント」とは、鉄道などの交通事業者において、経営トップから現業職場の係員まで一丸となって、企業における品質管理の自己評価基準である「ISO9000」シリーズを参考に安全管理体制を構築し、その継続的な取り組みを行うことにより、安全風土の構築、安全意識の浸透を図るという仕組みのことです。

グループワイドで安全マネジメント態勢の強化に取り組みました。

 

電車やバス、タクシーなど乗り物は違いますが、同じ「安全」を最大の使命とする交通事業者間で情報・意見交換を行うことは、とても有効です。そこで、2008年度より毎年、小田急グループの交通事業者16社(鉄道、バス、タクシー、観光)の安全統括管理者ならびに運転管理者などが出席して、各社の安全マネジメントに関する取り組みの発表や情報交換などを行う「小田急グループ交通事業者安全統括管理者会議」を開催しています。

2012年度は、各交通事業者からのニーズを踏まえ、「交通モード別での分科会」や「実務者レベルの研修」などを行いました。これらの活動を通じて、小田急グループ交通事業者全体の安全マネジメント体制強化の推進をさらに推し進めていきます。

ヒヤリ・ハットや気付きなどの情報収集と対策の検討、共有を目的に、安全コミュニケーションシステムを運用しています。

「ヒヤリ・ハット」情報の収集とその対策について、部門横断的な情報の共有化を進めるために、「安全コミュニケーションシステム」を運用しています。

このシステムは、社員の声や事故情報を一元的に管理し、部門横断的に共有できるもので、これによりヒヤリ・ハットや気付きなどの社員の声が、安全にかかわる部署の所属員なら誰でも閲覧・共有できるようになったほか、一元的に集められた情報を誰でも分析できる環境となりました。現在、定期的に支障状況(安全・安定輸送の阻害要因の発生傾向など)をまとめ、安全にかかわる全部門で共有しているほか、安全・安定の努力目標を定め、システムに蓄積されたデータの実績値を職場に示し、支障時分の短縮などお客さまに与える影響を最小限に抑えるべく、取り組んでいます。

今後も「体制」と「ツール」を有機的に結び付け、事故・トラブルなどにかかわる情報や鉄道係員の意見などについて、「情報収集→共有→分析→対策の検討→実施→対策の有効性検証」というPDCAサイクルを実践し、安全対策の強化に努めていきます。

安全コミュニケーションシステム(社員の声の展開イメージ)

[図]

安全キーワード:「ヒヤリ・ハット」情報

「ヒヤリ・ハット」情報とは、実際に発生した事故・トラブルに関する情報のみならず、そのまま放置しておくことにより事故・トラブルの発生につながるような情報のことです。

ハインリッヒの法則では、「一つの重大な事故の背景には、29の軽微な事故があり、300の異常(事故の芽)が存在する」と言われており、このような情報に基づき必要な対策を講じることにより、事故・トラブルの未然防止が図られます。

異常時を想定した、さまざまな訓練を実施しています。

全社的な訓練として、「鉄道テロ対応訓練」「総合防災訓練」「異常時総合訓練」を毎年実施しています。訓練後には必ず関係者を含めた反省会を行い、その効果の検証や改善点などについて意見交換し、取り扱いの見直しや、より効果的な訓練方法の立案などに生かしています。

鉄道テロ対応訓練を実施しました。

 

2012年6月に、新宿駅中央地下改札口付近・自由通路で「鉄道テロ対応訓練」を警察・消防と連携して実施しました。今回は、化学剤を使用した「鉄道テロ」を想定して、「鉄道テロ対応マニュアル」や過去の訓練の検証結果を踏まえ、被害拡大防止のための立入禁止区域の設定や構内放送による避難誘導などを行いました。

大規模地震対応訓練を実施しました。

 

2012年12月、大規模地震を想定した「総合防災訓練」を実施しました。これは、東京湾北部を震源とし、当社沿線で最大震度6以上の地震により大きな被害が発生したことを想定の上、当社が定める「危機管理規則」および「鉄道防災計画【地震災害編】」に基づき企画したものです。

当日は、参加者に訓練内容を事前に知らせない、より実践的な方法で実施しました。また、訓練中は外部機関によるチェックを行い、指摘事項について改善を図りました。

異常時総合訓練を実施しました。

 

 

50年以上にわたり毎年実施している「異常時総合訓練」を2012年11月に、海老名電車基地で、警察・消防と合同で実施しました。今回の訓練では、「踏切で電車と乗用車(ハイブリッド車)が接触し脱線」という事故を想定し、併発事故の防止やハイブリッド車による感電防止の取り扱いを確認。そして、お客さまの避難誘導や負傷者の対応など、さまざまな訓練を行いました。

また、二次訓練として、列車火災を想定した消化訓練を実施し、消火器の取り扱いなどの確認も行いました。

安全文化の醸成を図っています。

安全・安定輸送を絶え間なく実践するためには、全社一体となった安全文化が必要です。安全文化の醸成のために、当社では2008年度より、10月1日を「鉄道安全の日」と制定しています。

輸送の安全講演会/安全シンポジウム

 
第6回輸送の安全講演会
 
安全シンポジウム

2012年10月4日に「第6回輸送の安全講演会」と「安全シンポジウム」を同日開催しました。

輸送の安全講演会では、「ヒューマンエラーをゼロにすることはできないが、事故・不具合を防止することは可能である」をテーマに、安全シンポジウムでは、「安全・安定輸送に向けたデータ分析と活用」をテーマに講話などを行い、鉄道輸送にかかわる従業員の安全意識の継続的高揚を目的に、社長以下当社従業員と小田急グループ交通事業者の従業員約400名が参加しました。

第1部である輸送の安全講演会では、ANAラーニング株式会社より、ヒューマンエラー対策の専属講師をお招きし、ご講演いただきました。参加者からは、『課題であるヒヤリ・ハット情報の収集について、具体的な方法の講演があり、大変参考になった。今後に繋がるよう活用していきたい』などの声が寄せられました。

第2部の安全シンポジウムでは、当社の運転車両部4電車区合同、工務部機械保線区、複々線建設部下北沢工事事務所および異常時情報提供改善検討ワーキングチームが、それぞれの取り組みについて発表しました。参加者からは、『他部門では積極的に事故やトラブルを分析していることがわかったので、自分たちも分析をする必要性を感じた』などの声が寄せられました。

エリアミーティング

 
職場見学会

2008年度より、当社線を4つに区分けしたエリア内の現業係員および職場間相互のコミュニケーションの向上を目的に、「エリアミーティング」を開催しています。これは、各職場ごとに選出されたメンバーが複数回顔を会わせ、安全に関する情報・意見交換などが活発に行うもので、若年者層を対象とした職場見学会など、他職場の業務について理解を深める取り組みも実施しています。

事故事例DVDの製作

 
事故事例DVD

事故体験を共有する取り組みとして、社員が事故の事実とその後の対応などについて話し合い、事故を風化させることなく、次世代の後輩たちに伝承できるよう事故事例DVDを製作しています。

2012年度は、第3弾として「事故の芽を摘み取れ! ~生田4号踏切連続事故~」を製作・配付しました。このDVDでは、1971年10月28日に生田駅~読売ランド前駅間の踏切で、自動車が電車に衝突した事故を題材とし、「鉄道の安全を守るために、我々はどうあるべきか」を従業員の課題意識としました。

DVDを視聴した従業員からは、『新しい鉄道システムを構築するには関係部門の協力が大切』『ヒヤリ・ハット情報を生かして事故をなくそう』などの声が聞かれました。

安全に係る現業職場における部門横断的な取り組みを推進しています。

現業職場間において、「自主プロジェクト」「合同訓練」や「他職場体験研修」などの実施を通じ、コミュニケーションの充実・強化が図られています。

現業職場間の主な取り組み

職場 主な取り組み
新宿管区/喜多見電車区/喜多見車掌区
  • 三方コック、添乗防護具、車両取り付けはしごなどの知識教育
新宿管区/成城学園前管区/喜多見車掌区
  • 駅、車掌の業務体験、相互職場見学会
成城学園前管区/喜多見電車区/喜多見車掌区
  • 合同お客さま救出誘導訓練
旅客営業部/喜多見電気システム管理所
  • 電気転てつ器点検見学会
町田管区/喜多見電車区/喜多見車掌区
  • 出発・場内信号機停止現示での合同保安装置故障訓練、車両入換実証訓練
相模大野管区/大野電気システム管理所
  • 信号保安装置知識教育
小田原管区/運輸司令所/足柄電車区/足柄車掌区
  • 箱根登山鉄道との合同運転整理研究、三方コック、添乗防護具などの知識教育、事故対応および情報提供の研究
小田原管区/海老名車掌区/足柄電車区/足柄車掌区
  • 定期的に共通の広報媒体(金太郎新聞)の発行
小田原管区/秦野電気システム管理所
  • 節電対策やD-ATS-Pに関する説明会
藤沢管区/海老名車掌区
  • 車内警報ブザー・三方コックなどの知識教育
新宿管区/喜多見電車区
町田管区/大野車掌区
旅客営業部/喜多見電車区/海老名電車区
  • 合同入換合図訓練
喜多見電車区/喜多見検車区
  • 合同降雪対応訓練
喜多見電車区/喜多見検車区
  • D-ATS-Pのデータを活用した運転操作研究
大野電車区/大野総合車両所
  • 構内限定運転士へのホーム出庫訓練
海老名電車区/大野総合車両所/喜多見検車区/海老名検車区
  • ファミリー鉄道展における啓発活動
喜多見車掌区/大野車掌区/海老名車掌区/足柄車掌区/大野総合車両所
  • 車内空調扱いの研究

お客さまに安全と安心を(安全報告書2013)