2010年度につきましては、次の4項目による「安全重点施策」に基づき、取り組みを進めてきました。

  1. [1] 安全マネジメント態勢の推進
  2. [2] 安全のスキルアップ
  3. [3] 安全施設の強化
  4. [4] お客さまとの安全協働の推進

以下、この4項目に沿って、2010年度の主な取り組みを紹介します。

安全マネジメント態勢のさらなる整備、そして拡大の推進と組織レベルでの安全文化の醸成に努めました。

2008年6月、「情報の共有化」をテーマに安全管理体制を見直し、経営層から現業職場間の、双方向の情報伝達ルートを確立しました。これにより、安全に関するさまざまな取り組みについての目的意識・理解力の向上や、職場間の連携強化が図られ、安全マネジメント態勢の推進につながっています。

2010年度においては、安全管理規程にかかわる部門での組織改正や、当社を含めた小田急グループの交通事業者間における連携強化に努めたほか、部門横断的な情報共有とコミュニケーションを促すツールである安全コミュニケーションシステムの有効活用を推進しました。

また、異常時を想定した訓練の実施や、安全文化の醸成を図る目的で事故事例教材DVDを制作し、各職場に配付しました。

安全キーワード:安全マネジメント

「(運輸)安全マネジメント」とは、鉄道などの交通事業者において、経営トップから現業職場の係員まで一丸となって、企業における品質管理の自己評価基準である「ISO9000」シリーズを参考に安全管理体制を構築し、その継続的な取り組みを行うことにより、安全風土の構築、安全意識の浸透を図るという仕組みのことです。

運転車両部の組織改正を行いました。

運転車両部は、電車の運行管理や運転業務(運転士・車掌)、車両の保守点検などを担当しています。同部では、(1)危機管理対応力の向上 (2)組織体制の強化 (3)乗務員の労働環境の改善を目的に、2010年10月、足柄に電車区・車掌区を新設するとともに、新宿に喜多見電車区・車掌区所属の出張所を新設しました。また、これにあわせ、運転士・車掌相互のさらなる情報共有やコミュニケーションの強化を図るため、既存の3地区(喜多見、相模大野、海老名)で別フロアにあった電車区、車掌区を一つのフロアにする工事を実施しました。

連携強化を目的に電車区、車掌区をワンフロア化
連携強化を目的に電車区、車掌区をワンフロア化

グループワイドで安全マネジメント態勢の強化に取り組みました。

乗り物は違えども、同じ「安全」を最大の使命とする交通事業者間で、情報・意見交換を行うことは非常に有効なことです。そこで、2008年度より毎年、小田急グループの交通事業者16社の安全統括管理者ならびに運転管理者などが出席して、各社の安全マネジメントに関する取り組みの発表や情報交換などを行う「小田急グループ交通事業者安全統括管理者会議」を開催しています。

経営層・管理者層を対象とした安全マネジメントコンセプト教育を行っています。

経営層から安全管理規程にかかわる各部門の管理者を主な対象とし、安全マネジメントに対する理解の維持や制度変更などの周知を図るべく、定期的(3年に1回)に安全マネジメントに関する教育を実施しています。

安全マネジメントコンセプト教育
安全マネジメントコンセプト教育

迅速に情報を共有し、より効果的な安全施策を。安全コミュニケーションシステムを運用しています。

前述の「安全管理体制」の整備を図るとともに、「事故・事故の芽」情報の収集と、その対策について部門横断的な情報の共有化を進めるため、2009年4月より、「安全コミュニケーションシステム」の本運用を開始しています。

このシステムは、社員の声や事故情報を一元的に管理し、部門横断的に共有できるシステムで、これによりヒヤリ・ハットや気付きなどの社員の声が、安全にかかわる部署の所属員なら誰でも閲覧・共有できるようになったほか、一元的に集められた情報を誰でも分析できる環境となりました。そのため、定期的に支障状況(安全・安定輸送の阻害要因の発生傾向など)をまとめ、安全にかかわる全部門で共有しています。

今後も「体制」と「ツール」を有機的に結び付け、事故・トラブルなどにかかわる情報や鉄道係員の意見などについて、「情報収集→共有→分析→対策の検討、実施→対策の有効性検証」というPDCAサイクルを実践していきます。

2010年度に実現した「社員の声」の一例としては、「登戸駅構内に設置している転てつ器は、通常の転てつ器と違う動作をする。故障時に手動で操作するときに誤扱いしてしまう可能性があるため、番号と状態を分かりやすく表示してほしい」との社員の声を受け、PDCAサイクルの下、2011年1月に実現しました。

登戸駅転てつ器(赤枠部分)
登戸駅転てつ器(赤枠部分)

安全コミュニケーションシステム(社員の声の展開イメージ)

[図]

安全キーワード:「事故・事故の芽」情報

「事故の芽」(ヒヤリ・ハット)情報とは、実際に発生した事故・トラブルに関する情報のみならず、そのまま放置しておくことにより事故・トラブルの発生につながるような情報のことです。

ハインリッヒの法則では、「一つの重大な事故の背景には、29の軽微な事故があり、300の異常(事故の芽)が存在する」と言われており、このような情報に基づき必要な対策を講じることにより、事故・トラブルの未然防止が図られます。

異常時を想定した、さまざまな訓練を実施しています。

全社的な訓練として、「鉄道テロ対応訓練」「総合防災訓練」「異常時総合訓練」を毎年実施しています。このような訓練において当社では、訓練後に必ず関係者を含めた反省会を行い、その効果の検証や改善点などについて意見交換し、取り扱いの見直しや、より効果的な訓練方法の立案などに生かしています。

鉄道テロ対応訓練を実施しました。

2010年6月に相模大野駅構内で「鉄道テロ対応訓練」を実施しました。今回は、電車内での時限発火装置の鉄道テロにより発煙、負傷者が発生したことを想定し、「鉄道テロ対応マニュアル」の内容を踏まえ、警察・消防と連携して行いました。

総合防災訓練を実施しました。

2010年9月、大規模地震を想定した「総合防災訓練」を実施しました。これは、当社が定める「危機管理規則」および「鉄道防災計画【地震災害編】」に基づくもので、今回は、震度6以上の地震発生を想定。総合対策本部と現地対策チームなどとの情報の授受を重点に、鶴巻温泉駅~東海大学前駅間での徒歩点検や、箱根登山線を含む全線で列車一旦停止訓練を実施しました。訓練後、携帯電話がつながりにくい場合も想定した代替手段の課題が見出されました。

異常時総合訓練を実施しました。

40年以上にわたり毎年実施している「異常時総合訓練」を、2010年10月に海老名電車基地で警察・消防と合同で実施しました。今回の訓練では、「電車が踏切で乗用車と接触し脱線、乗用車が炎上」という事故を想定。併発事故の防止、初期消火活動とともにお客さまの避難誘導、負傷者の対応などその内容は多岐にわたります。二次訓練では、運転不能になった事故列車と、後続列車を救援列車として連結させ、車両基地まで誘導する訓練を行いました。

訓練後の反省会では、「関係各部との事前の打ち合わせや訓練などにより、関係部門との連携が深まっただけでなく、個々人のレベルアップにもつながり、異常時対応の強化が図れた」との意見が出ました。

安全文化の醸成を図っています。

安全・安定輸送を絶え間なく実践するためには、安全に関する情報共有への意識向上はもちろんのこと、全社一体となった安全文化が必要です。安全文化の醸成のために、当社では2008年度より、10月1日を「鉄道安全の日」と制定し、「安全シンポジウム」を開催しています。

安全シンポジウム
安全シンポジウム

2010年度の安全シンポジウムでは、小田急グループ各社および同業他社にもご出席いただき、「事故の風化防止」をテーマとして、当社各部における過去の苦い教訓などから継続して実施している取り組み、さらには他社からも取り組みを発表していただき、全社的に輸送の安全について振り返る機会としました。出席者からは、「他職場の優れた取り組みに刺激された」「事故の教訓を生かしていくため、事故の風化防止の取り組みを継続していくことが必要である」などの声が寄せられました。

安全講演会
安全講演会

その安全シンポジウムに先立ち2010年8月には、継続的な安全意識の啓発とともに、お客さま視点で鉄道の安全と安心を考える意識の醸成を目的に、第4回となる「輸送の安全講演会」を開催しました。今回は、JR西日本福知山線列車脱線事故で負傷者の救出・救護に当たられた兵庫県災害医療センターの中山氏に講演を依頼し、約270名が聴講しました。参加者からは、「事故発生時の初期対応の大切さを再認識し、事故を風化させず、命の大切さを伝えていく」などの声が寄せられました。

安全講演会
安全講演会

2008年度より、エリア内の現業職場間の連携を強化する目的で、喜多見、相模大野、海老名・秦野の3つのエリアごとに毎月1回実施している「エリアミーティング」では、安全に関する情報・意見交換が活発に行われています。2010年度は、安全統括管理者をはじめ関係部門の部長および現業部門の係員が参加し、「印象に残っている事故」などをテーマにディスカッションを行い、また他職場見学会などを開催しました。

そのほか、「事故」体験を共有する取り組みとして、社員が事故の事実とその後の対応などについて話し合い、次世代の後輩たちに伝承・定着させていくことができるようDVD「事故を風化させるな!小田急史上最悪の事故 ~鶴巻事故~」を制作し、各職場に配付しました。このDVDを見た係員からは、「悲惨な事故を風化させず、思いを伝えていきたい」などの声が聞かれました。

防災対策や体制の強化を進めています。

地震や異常気象に、より迅速・正確に対応できる体制づくりを推進しています。

地震や異常気象など自然災害発生時に迅速に情報をつかみ、お客さまの安全を確保し、被害を最小限に抑えることを目的に、2009年7月に「地震・気象情報監視システム」を整備しました。これは、沿線各所の震度、雨量、風速、河川の水位、レールの温度をオンラインで一元的に監視するシステムで、運輸司令所や電車区、工務区、電気システム管理所などで有効活用し、より迅速・正確に対応できる防災体制づくりを推進しています。

COLUMN:早期地震警報システム

地震・気象情報監視システムのほか、地震発生時の被害軽減のため、2006年より「早期地震警報システム」を導入しています。これは一定規模以上の地震が発生した際、気象庁から配信される「緊急地震速報」を利用し、主要動の到達予想時刻・最大予想震度など当社線への影響を瞬時に判定。被害が予測される場合には、全列車に自動的に通報することにより、運転士が手動で電車を緊急停止させるものです。

[図]

自然災害に備えた各種補強工事を順次進めています。

線路脇の斜面においては、土砂崩壊などによる事故を防止することを目的として法面(のりめん)防護工事を推進するとともに、法面の異常を検知し関係各所ならびに列車運転士に知らせる「土砂崩壊検知システム」を、全線57カ所へ設置しています。高架橋や橋梁においては、耐震補強工事を進めているほか、トンネル内についても補強工事を実施するなど、施設の強化に取り組んでいます。

法面防護工事
法面防護工事
高架橋の耐震補強工事
高架橋の耐震補強工事
トンネル内補強工事
トンネル内補強工事
土砂崩壊検知システム
土砂崩壊検知システム
橋梁の耐震補強工事
橋梁の耐震補強工事
地下駅火災対策工事に伴い拡充した防災盤
地下駅火災対策工事に伴い拡充した防災盤
COLUMN:鉄道防災計画【感染症編】

自然災害発生時の安全に対する取り組みについて、基本的な対応計画として、各対策をあらかじめ定めた「鉄道防災計画」を策定しています。これは、災害発生時の応急活動や緊急輸送ルートの確保など、各部が行うべき取り組みを事前に整備したものです。

このうちの【感染症編】では、2009年2月に国から示された「新型インフルエンザ対策行動計画」および「新型インフルエンザ対策ガイドライン」(いずれも強毒性のインフルエンザを想定)を踏まえ、お客さまと鉄道係員への感染拡大防止と列車運行の確保を図るべく、行動計画を策定しています。

お客さまに安全と安心を(安全報告書2011)