新宿駅西口地区開発プロジェクト
小田急電鉄は現在、新宿西口での超高層ビル建設と、東京都や新宿駅周辺の鉄道会社5社と共同で推進する『新宿グランドターミナル』の一体的な開発プロジェクトを推進している。その開発プロジェクトの背景やプロセス、小田急電鉄が思い描く開発後のまちの姿などをご紹介します。
「官民連携」で、
都市計画案を練り上げる
新宿西口は、小田急電鉄にとって特別な場所だ。小田急線の起点であることに加え、小田急電鉄は1960年代に小田急百貨店、西口広場を中心に新宿西口を開発し、新宿西口のまちをつくってきたという歴史を持っている。その小田急百貨店も開業から約60年が経過し老朽化が進行。これを契機として、小田急電鉄は新宿西口の開発プロジェクトをスタートした。
プロジェクトに転機が訪れたのは2016年だ。新宿区が、20年後の新宿駅周辺地域のまちの将来像の指針を公表。その翌年には、東京都も「地域の個性やポテンシャルを最大限発揮し、新たな価値を創造する拠点として再編することが重要」として新宿駅を位置づけ、東京都と新宿区による新宿駅の将来像に関する検討が加速度的に進んだ。その結果、小田急電鉄単独のプロジェクトから、関係行政(国、都、区)、鉄道事業者(小田急電鉄、JR東日本、京王電鉄、東京メトロ、西武鉄道)、学識経験者を交えた一大プロジェクトへと発展。これを受け、プロジェクトは一つの民間開発から、官民連携による魅力的なまち「新宿」を意識した一体的な開発計画立案へと大きく舵を切ることとなった。
開発進行中の新宿西口
国際競争力のある魅力的なまちへと、新宿を生まれ変わらせるためにはどうすれば良いか? 議論の末、プロジェクトがたどり着いたキーワードは、「ビジネス創発」。そこには、「新宿=大衆のまちという特性を活かし、企業側がリードしてビジネスを創造するのではなく、まちを訪れるユーザーと一緒に新しいものをつくっていけるまちにしたい」という想いが込められている。
一方、プロジェクトを進める上で困難だったのは、自ら練り上げた開発計画を関係行政に提案し、用途や容積などの規制にとらわれない自由度の高い計画を実現できる都市再生特別地区の認定を得ること。その計画が、新宿に、国際競争力を備えたより良い都市再生をもたらすという説得力がなければ提案は通らない。小田急電鉄として前例のない取り組みであり、誰もノウハウを持たない、文字通り手探りでの計画立案となった。その後数年にわたって、時には、外部有識者の意見やアイデアを得ながら提案と修正を繰返し、試行錯誤の日々が続いた。そうして、都市計画が決定されたのは2021年のことだった。
新宿プロジェクトに携わる3人
コロナ禍を機に、人を中心に
据えた計画の意義を強く再認識
プロジェクトがつくりあげた都市計画の基本方針は、「新宿グランドターミナルの実現に向けた基盤整備」、「国際競争力強化に資する都市機能の導入」、「防災機能の強化と環境負荷低減」の3つ。この方針のもと、駅とまちの連携を強化する重層的な歩行者ネットワークやにぎわいと交流を生み出す滞留空間を整備するとともに、災害時の帰宅困難者支援などによる防災機能の強化、最新技術の導入による環境負荷の低減に取り組む。
また、小田急百貨店新宿本館の跡地に建つ計画建物は、地上48階、高さ約260メートルとなり、高層部にはオフィス機能、中低層部には新たな顧客体験を提供する商業機能を備える。また、オフィス機能と商業施設の中間フロアには、新宿の特性を生かして、まちを訪れるユーザーと企業などの交流を促すビジネス創発機能を導入する。
計画建物(東西デッキ グランドシャフト)
こうした計画のもと、関係行政や他鉄道事業者等との協議を行いながら、後は着々とプロジェクトを進めていくのみ。そう思われた矢先、壁が立ち塞がる。想定外のコロナ禍だ。今後、加速度的に社会が変容を遂げ、人々のライフスタイルが激変するとしたら、そもそも都市は必要とされるのだろうか? そんな疑念すら湧いてきた。
そんな中、再度、プロジェクトの推進力となったのは、都市計画の達成目標を今一度再考することだった。1日約380万人という世界一の乗降客数を誇る新宿駅だが、通勤やビジネス・通学などの通過地点としての“移動せざるをえない”需要が多く、現状の新宿は乗り降りするだけが目的で、行きたい、滞留したいまちとは言えないのではないか? であれば、行きたくてたまらない、ワクワク感を持って訪れたくなるまち……つまり“〇〇したいから新宿へ移動する”という需要が増え、どんなにライフスタイルが変わったとしても必要とされ続けるに違いないと。
思えば、コロナ禍前につくりあげた都市計画は、人を中心に据え、刺激と交流と機会に溢れたまちづくりを志向していた。そこに立ち返った時、プロジェクト内で、「新宿を行きたくてたまらない“まち”にするのだ」という覚悟が強まった。
街を持続的に盛り上げるための
エリアマネジメント
数多くの社内外のステークホルダーとの連携のもと、
プロジェクトを推進中
小田急百貨店新宿本館が解体工事に入ったのは2022年10月。以降、2029年の竣工を目指して、現在、着々と工事が進められている。計画建物の足元の小田急新宿駅1階には快速急行やロマンスカーのホーム、地下には各駅停車のホームがあり、また、地下1階と地上1階には交通広場の整備が進められ、東西・南北をつなぐ歩行者ネットワークの整備、2階に小田急線新設改札の設置が行われる。さらに、3階、4階には交流広場、9階〜14階にはスカイコリドー、駅前広場は歩道や車道の表層等の整備も行われる。
これだけ複雑・多岐にわたる工事を、駅を利用されるお客様のみならず、小田急線が通常営業し、駅をはじめ数多くの関係者が日常業務を行っている中で進めていくのは至難の業だ。「工事によりお客さまの導線が変わったとき、どのようにご案内すべきか?」「建物の閉館に伴う対応は?」など課題は次から次へと出てくる。そこで着工後、プロジェクトが心を砕いたのは、社内の各部署との連携である。いつの時期にどういう工事が入るのか、各部署への公式のアナウンスのみならず、プロジェクトメンバーが直接、各部署のキーパーソン一人一人と会い、「こういう状況になるので、こうしてほしい」と伝え、相手に自分ごととして動いてもらえるよう働きかけている。
一方で、プロジェクトは、新宿グランドターミナルの実現に向け、小田急電鉄、JR東日本、京王電鉄、東京メトロ、西武HDの5社協議を進めている。新宿駅は複数の路線が乗り入れており、小田急電鉄以外の他社も開発を計画している中、工事に関わる調整が当然必要になってくる。そこでは利害関係がぶつかることも。しかし、5社で新宿グランドターミナルをつくっていくという思いは同じ。その想いを胸に、5社の担当者全員でさまざまな課題をクリアするアイデアを考え、その困難を乗り越えている。2029年竣工まで、プロジェクトの苦難と挑戦は続く。しかし、その先に、新宿西口の景色と建物がこれまでとは一変し、行きたいまち、何かのきっかけになるまち、楽しい思いができるまち……、そんな人が中心になる新宿の未来が待っている。
計画建物(ビジネス創発機能 吹き抜け)
多様な経験を持つ社員がそれぞれの強みを活かし
プロジェクトを成功に導く
担当者の声
「まちづくりがしたい」が入社動機だったこともあり、2015年に本プロジェクトに参画した時は純粋にワクワクしました。なかでも私が取り組んでいるのは、まちづくりと新規事業。常にまちの価値を高めるためにどんなことができるかを考えています。例えば、NTTドコモと協業して、新宿駅周辺でスマホアプリを活用したXR体験イベントを開催したのもその一例です。今後も人が刺激を受け、人と繋がって、そうした新しい体験のきっかけになるようなものをどんどん生み出していく予定です。今は小さい動きですが、それが積み重なっていくことにより、新宿を楽しいまち、ワクワクするまちにしていければいいなと期待に胸を膨らませています。
2015年より本プロジェクトに参画する直前の2年間は、東京都都市整備局派遣にて、東京駅、品川駅等の大規模ターミナル駅プロジェクトの計画調整を担当。そこで培ったノウハウを本プロジェクトに活かしたいという強い気持ちで業務に取り組み、事業推進に大きく貢献できていると思っています。小田急電鉄として、西新宿の高層ビル群で最も高くなるほどの超高層ビルを建てるのは初めてのこと。技術はもちろん、関係各所との協議調整から始まってそれを実現するノウハウは、小田急電鉄および小田急グループにとって確実に大きな財産になると確信しています。実は個人的には今の新宿は来たいまちではありません(苦笑)。それを来たいまちにできることに大きなやりがいを感じています。